桂かい枝「お玉牛」(神戸新開地喜楽館配信)

後半は桂かい枝、桂文鹿のお二人。
三若師を含めた3人は先代文枝から出ている一門。吉弥師だけ米朝。

お二人とも、古典新作両方やる。
かい枝師は吉本なのでなかなか聴けないが、それでも今年の上方落語をきく会にも出ていた。出番があれば楽しみな人。
文鹿師は、上方落語協会を辞めてしまった。
非会員は、喜楽館や繁昌亭には自由には出られない。
文鹿師はラジオ等も含めてまったく初めて聴く。林家きく麿師のマクラにこの師匠出てきて、それ以来どこかで聴きたいと思っていたのだ。

かい枝師は見台なし。
弟子入りのマクラ。師匠としての。
英語落語をするもので、オーストラリア女性が弟子入り志願にきた。
それから73歳の男性も。「落語は年取ったら味が出ると聞きまして」。
楽しいマクラをネタ3つ語る。のんびりした語り口が味わい深い。

本編はお玉牛。珍しい噺だ。
この元気寄席では一度も出ていないそうである。
米朝全集に入っていたのでかろうじて知ってはいる。
村一番のべっぴんさん、玉ちゃんを狙うバカな男どもの噺。
前半、お玉ちゃんへの想いが叶うと思ったら夢の話。
こんなところに隠れた夢の噺があった。もっとも、ごく軽いのである。
軽くて、初めて噺を聴く人間にとっても、衝撃のストーリー大転換という感じではない。まあ、そんなもんだろうねという。

後半が夜這いの話。
先日池袋で聴いた、白鳥師の「3年B組はん治先生」の一部を急に思い出した。
はん治先生が生徒たちに、古典落語の演目が、現代いかに出しづらくなったかを確認するシーンがあったのだ。
「引っ越しの夢」なんてやりにくいと、生徒の三三やこみちが返していた。
引っ越しの夢は夜這いの噺である。
そして、ここにも夜這いがあった。
そういえば田舎の夜這いということだと、柳家さん助師の「夏の医者」にも入っていたのを思い出した。

夜這いをお玉に約束させるのは、脅迫である。
刃物をお玉に突きつけて、「うん」か「ぐさ」か、うんぐさかという、締め込みみたいなフレーズが入る。
お玉が計略で、昼日中ではなく、夜中忍んでこいと。
大事な娘に夜這いなんかさせるわけにはいかない。なので親父が、お玉の寝床に牛を寝せることにする。
なにも知らずに牛が寝ている寝床に侵入してくるのんきな男。
ここでハメものが入る。夜這いの描写に三味線を入れるなんて、これまたのんきだ。

初めて聴く文鹿師は、男前の声である。そしてマクラは、タメ口を多用する。
トリになったのは寄席にやってきた順番だという。いつもそうだが、私が一番最後に来たので。
最後に来た理由は、「笑福亭鶴笑師匠に米沢彦八を襲名してもらおう」という勝手連の活動に端を発する。
上方落語の祖、米沢彦八は野外でやった人だった。パペット落語の鶴笑師こそ彦八の名にふさわしいのだという。
そしてチラシも刷る。手荒い手法かもしれないが、どんどん進めていかないといけないのだ。

だが、笑福亭のある師匠に叱られ、呼び出されたのだという。配信で実名出してたが。
鶴笑に継がせたいのなら、まずは笑福亭に挨拶し、話を通すべきではないかと。
言われれば確かにそうだと反省する文鹿師。

それから、上方落語界の話題は文枝師が、「桂三枝」の名を弟子に継がせたいと語ったこと。
できれば同期の三若に継いでもらいたい。
また「桂三若に三枝を継がせる会」のチラシでも作ろうかと。
文枝師とまた喧嘩になるだって。喧嘩したから退会したんだろうが。

本編は胴乱の幸助。
大ネタにしては、ずいぶん聴く機会が多い不思議な噺。好きですがね。
中身が詰まっていて、ダレ場がない楽しい噺なのだ。
そして文鹿師、間に入る浄瑠璃をたっぷり稽古している。

それにしても、二人の喧嘩の前のシーンが長いこと。
向こうから割木屋のおやっさんがやってきて、しめた一杯飲める、となってからの打ち合わせが長い。
もともと、このくだりが不自然な噺。
文鹿師、いっさい気にしないでエンドレスでこの部分をやり切るのだった。噺の嘘は、嘘だとわきまえていれば無限に拡大してもいいらしい。

書いたとおり浄瑠璃は本格的。
中手が入ってもいいところだが。

フィクションの嫁いびりを仲裁に京都まで出掛けるくだりは、実に軽い。
誰も焚き付けていないのは、実に斬新なつくり。

実に見事な会であった。
さすがにここまでの内容は、月1回あれば十分だろう。
先月と同様、今月も5週あるので楽しみだ。少々落ちる会もあるかもしれないが。

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作成者: でっち定吉

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