月に1,100円支払って、神戸新開地喜楽館の配信を聴いている。毎週更新。
十二分に価値を感じている。とはいえサブスクは吟味する方針なので、月の節目ごとに検討はするが。
1週間前のものは、尼さんとして有名な露の団姫師の語りがすばらしいものだったが、全体的には普通。
火曜日に更新されたこのたびの内容は、感激するもの。
長短 | 遊真 |
厩火事 | 紫 |
虫売り | ちょうば |
親子酒 | 文三 |
もちろん噺の内容もよかったのだが、今回特に感心したのは全員のマクラ。
前座として登場の月亭遊真さんが、師匠に叱られた噺をする。
これ自体はごく普通のこと。
ただ師匠の遊方師、客観的には厳しいことはまるで言っていないのだった。
師匠がトンカツ定食を頼むので、弟子も同じものを頼む。師匠より上のものを頼んだわけではないので、間違った作法ではない。
先代松喬が、師匠・松鶴の出前で、師匠より高いカレーうどんを頼んで烈火のごとく叱られたというエピソードは、誰から聴いたっけか。
ともかく、師匠と同じものを頼んだのに師匠からクレーム。
俺がトンカツ頼んだんやから、お前は唐揚げでも頼めば、シェアして両方楽しめるやないかい。カップルか。
これだけのことかと思うと、さすがに寄席は面白い。
2番手の露の紫さん(NHK新人落語大賞にもはや出られなくなったから、師匠と呼ぶべき?)も前座に被せ、自分師匠・上方落語の女流パイオニアである都師匠の厳しいエピソードを語る。
叱られ過ぎてなんでも返事が「すみません」になってしまい、会話の成り立たなくなる姉弟子・眞を引き合いにしつつ。
というか、「厳しい」とは語るが、客観的にはそうでもなかったりして。
むしろ、家の中に入ってきて、いろいろ作業してついでにものを壊し、そして車をぶつけて修理代を発生させる弟子に我慢し続ける、師匠の偉大さが伝わってくる。
そして師匠から、師匠の大好きなご主人に噺を持っていって、厩火事につなげるのであった。
2013年にNHK新人落語大賞で出してましたな。その後もたぶんラジオで聴いた。
紫さんの代表作のようだ。
そういえば、つる子師を追ったドキュメンタリーでもって紫さん、カメラの前で夫婦について語っていたのを思い出した。
なんだかリアル厩火事みたいなエピソードを。
中トリの桂ちょうば師も、もう特集だということで、先日亡くなった師匠・ざこばについて。
師匠にカラオケに連れていかれる。ボックスではなくスナック。
兄弟子、ひろばが「ウルトラソウル」を歌い、ちょうば師が「シングルベッド」を歌ったが、師匠はご機嫌ななめ。
スナックのママにカラオケの電源切ってくれと言い、シンとしたところで説教が始まる。
シャ乱Qだかバタンキューだか知らんが、誰が知っとんねん。ここのお客さんみんなが知ってる歌を歌わんかい。破門じゃ。
こういうところで上手いのが筆頭弟子の塩鯛師で、「箱根八里の半次郎」を歌い、やだねったらやだねと皆大盛り上がり。ご機嫌な師匠。
この流れに乗って兄弟子、わかば師が熱唱するが、やはりカラオケ切ってくれと師匠。
お前、落語ももっと上手くならんかい!
わかば師という人のエピソード、梶原いろは亭に出た佐ん吉師からマクラで聴いたので、勝手に親近感がある。
佐ん吉師によると「どうして金持ってるのかわからない」人だったが、弟弟子のちょうば師によると、「週6日弁当屋で働いてる人」だそうで。
師匠・ざこばのエピソードはまだまた続く。ご本人の作った動楽亭に酔っぱらって飛び入り参加した話やら。
馬を買った話やら。馬の名前は「チョウマル」。我々も今度襲名するが、ひとりも朝丸は継がない。馬がまだ持ってるから。
ちょうばという人、今度米之助を襲名予定。
こういう噺家がいることは認識していたが、今回初めてしっかり配信で聴いて、そのフラットな語り口がすっかり気に入ってしまった。
ざこば師の弟弟子、千朝師がこんな感じかなと。
そこから入った本編は、「虫売り」という。自分で作った新作、というか擬古典落語らしい。
こちらもいい内容でした。
こういう流れになると当然、トリの桂文三師も、師匠・先代文枝のエピソード。
文三師、非常に好きな噺家だが、吉本所属の噺家はラジオではなかなか聴けない。配信はありがたい。
鎌倉で会を催してもらえることになり、入門したての文三師は、交通費を浮かせるため運転手として、そして開口一番として出向く。
まだ名前もないので、メクリに「三宅」と本名を書いてもらって上がる。いよいよ初高座。
出囃子の生演奏がないのは仕方ないが、師匠がカセットの操作を誤り、天気予報で出ることになる。
師匠からは余計なマクラ振るなと厳命され、「鳩がなんか落としたよ」と小噺を語れと。
しかしオチケン出身者である文三師といえども、プロの高座は緊張し、あろうことか「鳩がフン落としたよ(考えて)汚な!」と語ってしまう。
客席はポカンとしていたが、楽屋に帰ると師匠だけ大喜びだったという。
面倒なので稽古も付けてくれず、いつも怒り気味の師匠。だがそれを回想する弟子はとても楽しそう。
師弟関係から「親子」というキーワードを拾い、親子酒につなげていった。
マクラで語ってるように下戸の文三師、それはそれは見事な酔っ払い。
厳しい厳しい、と言いつつほのぼのと心に火がともるエピソードばかり。
師弟の間にもいろいろなことがあるが、基本的には落語の師弟関係はいいものだなあとしみじみするのであった。