神田連雀亭ワンコイン寄席55(下・春風亭一花「駆込寺」)

好青年さんは、マクラ10分だが、本編「がまの油」は10分ではできなかったようでやや時間オーバー。
今日の番組の木札を見ると、女性に挟まれて両手に花ですだって。
私も新作作ります、SDGsとか、頼まれていい加減な噺を作ってますだそうで。

がまの油の口上は、一般的なものよりさらに長い気がした。といっても、知らないくだりはなかったからゆっくりやっているということなのか。
ゆっくりやればそれだけ、間を持たせる必要が出てくる。
ちゃんと間が持つからすごいなと思うのです。
この口上の1周目は、面白いことを言う場面ではない。口上自体が楽しくないと聞いていられない。
好青年さんはなんだかトボけている独自の味があり、口上との距離を適切に取って楽しく聞いていられるのである。

長い口上をやり切り、パラパラ拍手。
この噺だけは、よほどひどい口上でない限りは中手を入れるべきと私は思う。金明竹には入れなくていいから。
ご本人ここで演者に戻って、「これは結構時間掛けて覚えた」とのことでした。

2周目に入ると、がまの油売りは酔っ払っているからメチャクチャを言い出すが、これまた好青年さんぽくて好き。
好青年さんの落語自体、ほどよく投げやりという気がするのだ。
口上の前半について口が回らないが、「こんなもん、俺だって覚えたままだからなに言ってるんだかわかんねえや」。
そして、好青年さんはずいぶんと師匠の持ち味に近くて、これも好き。
好楽師の弟子も数多いが、持ち味が一番似てるのが、この青い目の噺家だというのが面白いじゃないか。
一生懸命ふざけようとかではなくて、本当に持ち味が師匠っぽい人。

実に楽しい一席。
ヨーロッパ公演もいいが、日本でもってこの面白さをもっと広めていただきたいと思う。

トリは春風亭一花さん。
今日の顔付けは面白いですねと。
きよ彦さんも初高座で。好青年さんは二度目なんですけど。
きよ彦さんは新作でしたけど、私も新作があるんでこれを掛けようかと思います。

私には噺家の夫がいまして。
今日は本来、夫の出番だったんですよ。
この金原亭馬久ですけど、ついに来年、真打昇進です(拍手)。本人に代わって言っておきます。
なんでもここの夜席で、真打まで毎月会をするそうですよ。よろしければぜひ。
結婚したときにお客さまに、一花さんは金原亭になるのなんて言われましたけど。そういう仕組みではないので引き続き春風亭です。
夫婦揃って噺家だと、実は便利なこともあります。
まず、お互いの噺を教えっこできます。
それから、夫婦揃って稽古付けてもらいにいくこともあるんです。
それから、お互いの師匠に稽古を付けてもらえます。

今日やる噺は、先代柳朝が1回だけ掛けた噺なんです。1回というのが微妙ですね。まあ、そういう噺なんですけど。
これを柳枝アニさんのところに、夫婦揃って付けてもらいにいきました。アニさんも勘弁してよって言ってましたけども。
駆込寺という噺です。

へえ、駆込寺って新作なんだ。知らなかった。
誰かが作った新作落語は、擬古典落語として作ってもどこか文法が違うというのが私の観察。でもこの噺は古典の珍品ぽさが濃厚なのだが。
先日、この夫婦の出た新横浜コットン亭で、馬久さんから聴いたばかり。今度は奥さんから。面白いじゃないか。
ちなみにホワイトボードには「駆け込み寺」って書いてあったけども、駆込寺のほうがいいと思う。
そして、こちらに来るためにやめた柳枝師と接点ができた感じ。

それにしても、ご主人の真打昇進を喜ぶ奥さんっていいですね。
馬久さんも、先日落語研究会の高座(花瓶)がオンエアされてたから立派なもんだ。

馬久さんと一花さん、噺はほぼ一緒。当たり前と言えば当たり前。
かみさんに顔面、碁盤の目に引っ掛かれて「囲碁気を付けます」なんてクスグリも一緒。
だが、随所に一花さんらしさが見え隠れして、楽しいものだった。
かみさんに出てかれた亭主が縁切寺の話を聴いて大家に「クソジジイ!」。
その後かみさんが帰ってきて、隣のおばさんにやはり縁切寺の話を聴いて、「クソババア!」。
パラレルなのが楽しい。
鎌倉は遠いが、夫婦はさっさと到着。わざとこうしているのだと思う。
堪忍袋みたいな味わいが出てくるわけである。

落語から、噺家夫婦の生活が垣間見えるのも楽しいものだ。
これブラッシュアップしたら、NHK獲れるんじゃないですかね。

午後は毎月23日の「堀之内寄席」にハシゴした。
通常二ツ目の会に、珍しく世話人の古今亭今輔師自ら高座に上がっているので駆け付けたのである。
楽しい会だったのだが。
今輔師は会話だけでできた新作で、そしてトリの昔昔亭喜太郎さんは、ショート新作3連発。
ここまで内容が、記憶に残っていないことも珍しい。暑さのせいではなくて。
駅から遠い妙法寺、酷暑の中行ってよかったが、ブログのネタにはなりません。

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作成者: でっち定吉

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