さだまさしプロデュース特別落語会(配信)

解約し損なった産経らくごだが、これはこれで大変な数の落語会が聴ける。
兼好、宮治、それから大手町落語会など繰り返し聴いている。
宮治の会はブログで取り上げるつもりだ。

そう思っていたら、今日は「さだまさしプロデュース特別落語会」が生配信だった。
柳枝師の途中から気づいて参加し、観終わって冒頭15分をアーカイブで聴き直した。
書きながら再度聴き直した。
普段、現場のもようを細かく覚え帰ってくる私だが、再度聴ける場合、全然覚えない。
そんなものだ。

前説さだまさし
やかん小じか
堪忍袋柳枝
お血脈小せん
 (仲入り)
犬のお伊勢参り(さだまさし作)一琴
トークさだまさし、一琴、小せん、柳枝

さだまさし御大は嫌いな人ではないが、自分でチケット買いたいほど好きでもない。
そんな会だからこそ、サブスクでの配信に価値がある。
さだまさしは歌ったり、おもしろロングトークを披露したりするわけではない。前説だけである。
だが好きな人が集うのでしょうなあ。
演者も選び、さらに演目もさだリクエストだそうで。
先日さだまさしが重要な役割を果たす柳家花いち師の落語を聴いたが、この人なんか次のさだプロデュースにどうでしょう。

前説、つい長くなっちゃうなんて言ってたが、それほどすごいことを言ってるわけではない。
出てくる演者の紹介をしている程度なのに聞かせるそのトーク力のすごさに感心する。
一琴師はこの日らくごカフェの会が先に決まっていたため、そちらの開演を30分遅らせたのだそうで。実際、トークの途中で帰っていった。

小せん師の弟子、小じかさんの高座は初めて。鈴本で、仲入り時に諸注意をしていた落ち武者振りは見たが。
前座の割には貫禄があると紹介されていたとおり、堂々としている。
ハゲてるのに、後ろ髪を伸ばしてチョンマゲにしている。桂雀三郎師みたいな。
そしてビジュアルがなんとなく小ゑん師匠に似ている。
前説が伸び気味で時間がマキのため、いきなり鉄瓶、土瓶からやかんである。なかなか達者。

春風亭柳枝師は、流行っている遊雀型の堪忍袋。落語協会では初めて見たかも。
もっとも遊雀師に教えたのは円楽党の竜楽師だそうなので、そちらから来ている可能性もあるが。
柳枝師はさすが上手いが、特に感心したのは女房の声をまったく同じ高さで描いていながら、女だということが明らかということ。
明らかに女房が喋っていて、よく考えたら亭主と高さが一緒だという。

柳家小せん師は最近ご無沙汰である。
配信で聴けて大変嬉しい。
このお血脈はすばらしいデキだった。この配信の大当たり。
コロナ禍の配信あたりでかつて聴いたように思うが、この喋りは二度三度聴いてもまったく擦りきれないだろう。
そもそも「自然な地噺」というもの、落語界広しと言えども大変貴重である。
最近そんなのを、喜楽館配信の笑福亭松喬師で聴いたばかりだが、本当に他にそれぐらい。
松喬師も小せん師も、そもそもギャグのない状態で噺をスラスラ語ることができる。そこに強くないクスグリを乗っけていくからたまらない。
強くないが、お釈迦さまが生まれてすぐフランス語っぽく天上天下唯我独尊を語るなんてのはやたら楽しい。仏語だから。
逆に下手な例。
地のセリフ(説明)をダアッと語り続けるので、客の気がそれていく。なので客の気をそらさないためにギャグを入れてくる。
そのギャグも、所詮は客いじりだったりして。

小せん師、さりげなく世相風刺も入れていく。ちょっと古いが首相の息子やら、女性議員のパリ視察やら。
だが、さらっと語り客に共感を求めにいかない。
こういうときに手を叩いたりする客は、面白いからではなくて、演者と思想が一致したからと勝手に思っているからである。
高座進行の妨げになる共感は客それぞれに任せ、楽しさだけ乗せて先に行く。
さらに言うと、「政治宗教野球の話はダメ」と最初に断っているのがミソ。

柳家一琴師は、以前ヒザがかなり悪かったはずだが、治療したらしくもうあいびきすら使っていない。
まあ、私が随分ご無沙汰してるということだ。
一琴師は、さだまさしが自ら書いた新作落語、「犬のお伊勢参り」。
大阪弁が出てくるので、大阪出身の一琴師にやってもらいたかったと、さだまさしが語っていた。
もっとも一琴師は確か大阪弁が不得意で東京に出たはず。小せん師のほうが上手いんじゃないかとこれは私が思うだけ。
この噺、フルで3時間近く掛かるらしい。それを18分でやるという。
これではもちろんダイジェスト。今度福島県でフルVer.2時間半を出すらしい。

体の悪い主人に変わり、犬が代参でお伊勢参りに行く噺。
柳家さん喬師の「鴻池の犬」を思い出した。これも新作っぽい古典。
どちらも時間次第でロードムービーになるらしい。
ひとつだけ気になったことが。
東海道、宮・桑名間は海上ルート「七里の渡し」であるが、陸路についても語られる。
東からの陸路はもともとない。名古屋からの佐屋街道も、陸ではつながっていなくて三里の渡しを通らないといけないのだ。
まあこれを言い出すと、そもそも大井川はどう渡るんだという話になるからいいのか。3時間の落語には大井川渡しも出てくるのだろうな。
あと「東海道を西に下る」って、これは演者の言い間違い。

最後はトーク。
放送コードの話などしていた。
按摩もダメみたいと。「盲目のマッサージ師」になってしまう。
どんどん落語もやりづらくなると思っている人も多そう。「3年B組はん治先生」にもそんな場面があった。
だが、落語研究会でも「按摩の炬燵」なんてもっとも放送コードに引っかかりそうな噺まで流れているのだ。
実際には、ひと昔前よりも随分ゆるくなっているのだ。
それよりは、黄金餅みたいなグロ噺のほうがやりづらい時代じゃないかなと思う。

柳枝襲名や、3K辰文舎の活動などの話も。

使い方次第では月1,100円の配信は格安。
でも、ひとまずはやめるつもりではある。上方落語の寄席の配信ともども、再構築する。
ぴあ落語ざんまいも、一度入ってみるのもいいかな。

作成者: でっち定吉

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