九官鳥小噺リアル版

台風が去ったらとたんに秋めいてくるのではと期待した。そんな年もよくあるでしょう。
今回は全然そんなことはなかったが、今日は初めて空が高く、ちょっと秋の気配。
目黒のさんまの季節である。
そうこうするうちに時そばやら、二番煎じやら出てくる。

今日は巣鴨スタジオフォーの「柳枝のごぜんさま」に行こうかと思っていたのだが、結局やめた。
行きたいところはたくさんあるので全然構わないが、とりあえず仕事をする。
仕事をする意欲はあるが、書くネタは自分で探さなきゃならない。
ちなみに魚屋では初サンマが出ていた。

「犬も歩けば棒に当たる」ということわざは、誤用で使われることが多いようだ。
とりあえず出かけてみると、なにか(いいことも)あるという。
この意味は誤用とされているのだが、私はもっぱら誤用のほうを好む。
実際、街を歩いたら本業のネタが見つかった。
このネタを早速、ドトールコーヒーで書こうと思い、やってきた。

静かなドトールの2階で、3人組のおばちゃんが大きな声を上げている。ああ、やかましいなあ。
だが、婆さんたちの会話から、本業だけでなくブログのネタまで拾ってしまった。

うちで九官鳥飼ってたのよ。
ピンポン鳴るとうちの母が、「はーい、ただいま」って言うのを覚えちゃって、ピンポン鳴るたびに九官鳥が「はーい、ただいま」って言うのよ。
あるとき母が外から戻ってきたら、近所の奥さんが玄関先で待ってるんだって。どうしたのって訊いたら、「今、『はーい、ただいま』って言われたから待ってたの」

落語でよく聴く九官鳥小噺のリアル版が聞けて、なんだか嬉しくなってしまった。
なので仕事を後回しにしてドトールでブログ書いてる次第。

噺家さんのマクラでよく聴く九官鳥小噺は、こう。
上方落語四天王のひとり、笑福亭松鶴の実話と断って語られることが多い。

松鶴はピンポンが鳴ると、「誰や!」と必ず答えてました。
九官鳥がこれを覚えまして。
あるとき松鶴の留守に新聞屋さんが集金に来まして、ピンポンを鳴らします。
九官鳥が「誰や!」
「新聞屋です」
「誰や!」
「新聞屋です」
「誰や!」
「新聞屋です」
「誰や!」
「新聞屋ですう〜」
かわいそうに新聞屋さん、フラフラになって玄関先で倒れ込んでしまいました。
帰ってきた松鶴が、玄関に倒れている男性を見つけて言いました。
「誰や!」
九官鳥が「新聞屋です!」

東京でも鶴光一門が広めているのでよく聴く。
それから、小朝師もやったんじゃないかと思う。
松鶴を使わずに、一般的なネタとして、お婆さんと新聞屋にしてやる人もいる。
笑福亭に連なる和光師は、なぜか新聞屋とお婆さんのネタにしてたけど。

マクラの小噺というのは、そんなに斬新なものはない。
粗忽の噺ならこれ、泥棒の噺ならこれ、なんてのが決まっている。
アメリカンジョークから持ってくるとちょっと斬新に見えたりもする。
先日鯉昇師が蛇含草のマクラで振っていたバス車中のカチワリ氷の小噺もそう。
あとは悋気のネタのマクラで聴く、冷蔵庫の小噺なんかもそうだ。
嫉妬に狂った男が、外をズボンをたくし上げながら急いでいる男に冷蔵庫を投げつけるというアレ。
それからドライブ猿。
牛の乳を持ち上げたら時間がわかる酪農家なんてのも。

さてにぎやかな婆さんたち、帰っていった。静寂が戻ったので仕事をします。
今日のブログは短めだが、まあ扱ったものが小噺ですので。

作成者: でっち定吉

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