真山隼人「ネンイチはやと!」(上・「鯛」)

24日土曜は、行きたいところが目白押し。
もともとスケジュールには、「文鹿・ぽんぽ娘兄妹会」を入れていた。
非常に興味ある人たちだが、会場がしばらく続けて出かけたらくごカフェなのがちょっと。
お寺でやってる「花いち・圭花」の兄弟弟子の会にも行きたい。
新橋で桂佐ん吉の会というのもある。
あと扇辰師の独演会とか。黒門亭では二ツ目の会だとか。
かわら版じっくり見たら、まだまだいっぱい。

結局、横浜にぎわい座の小ホール、真山隼人「ネンイチはやと!」のチケットを前々日に購入する。
真山隼人という売出し中の上方若手浪曲師のこと、私は実のところよく知らない。
それ以前に、日頃から浪曲聴きにいってるわけでもないし。
ABCラジオのなみはや亭で、名を聞くことがある程度。だからといって、ラジオから浪曲が流れてくるわけでもない。
でも、そんな冒険もしてみたくなった。

にぎわい座では、一度落協芸協合同の寄席定席に来た以外は、上方落語を聴いている、面白い縁。
にぎわい座の地下、のげシャーレは初めて。
シャーレってなに? 理科の実験以外ではここでしか見ないことば。
小ホールといっても、池袋演芸場より広い。
客は60人くらいか。

暗い舞台に先に曲師が登場し、チョーンと木が入って明かりがつき、浪曲師が登場のスタイル。
前座に玉川奈みほという人が入っていたが、代演のお知らせが出ていた。
なんでも移籍をしたので出られないのだとか(隼人師による)。ま、よくわからぬ。
代わって天中軒すみれさん。スラリとして女袴をキリッと締めた若い女性。
茅ヶ崎からやってまいりましたとのこと。
代演ですが曲師は沢村まみさんのままで、これは非常に珍しい組み合わせなんです。
今後10年ぐらいないかもしれません。
お客さんと演者も一期一会ですが、舞台の上も一期一会なんです。ほぼセッションですね。
まみさんはさくらさんの妹弟子で、関東節の人との組み合わせが多いんですね。玉川奈々福師匠とか東家孝太郎さんとか。
たまには関西節もありますか。

でっち定吉も関東節と関西節とがあることまではかろうじて知っていた。
なるほど天中軒の一門は関西節なんですね。
関西節のほうが節、つまり唄が多く、関東節のほうが啖呵(セリフ)が多く落語に近いようである。

隼人アニさんが関西からお越しになったから、というわけでもないのですが、太閤記から。
すみれさん、いい声で朗々と歌い上げる。

藤吉郎が、信長公お気に入りの前田犬千代をケンカで打ちのめしたというのが町の評判。
おじさんはとても困っている。
犬千代とは、説明はなかったが調べたら前田利家だ。
信長公に呼び出されるが、物怖じしない藤吉郎、気に入られて士官が叶う。
途中ちょっとウトウトしてつながらないが、そういう話だろう。
浪曲は本物の唄であるからして、気持ちいい。

また舞台照明が消え、いったん引っ込んだすみれさんがメクリを替え、そしてまみさんとともにテーブル掛けを剝がす。すると隼人師匠のテーブル掛けが出てくる。
こんなのも、私には物珍しい。

真山隼人という芸人には敬称をなんと付けたらいいか。
まだ29歳であるが、キャリアは実に14年。
師匠でいいと思う。

浪曲というもの、落語と比べると東も西もそんなに変わるもんじゃないと認識していた。
だが隼人師はバリバリの関西弁で喋り出す。出身は鈴鹿。
まずはマクラということらしい。曲はなしに、漫談を語る。

横浜にぎわい座に寄せていただくたびになにかあります。
エスカレーター上がってきたところのセブンイレブン、狭いんですよ、とさくら師匠のアイスコーヒー待ちの待ちスペースに苦労した話。
今回は急遽前座さんの交代がありまして。
すみれさんに出ていただきましたけど、この会の第1回の出演者ですよ。いかにこの、私に知り合いが少ないか、人脈が薄いかということでして。
以前この近所で打ち上げやったとき、コロナ禍なのに寒いから絶対に窓開けないでくれっていうお店で。
しかも朝からノーマスクで咳き込んでる先輩がいたんですよ。
これは究極のパワハラです。
案の定、私ともうひとり感染しました。
その先輩に、私らコロナになりましたけど大丈夫でしたって訊きましたら、「俺は大丈夫。ただ、1週間熱が出たけどな」。
はる乃さんとの二人会のときは、事前に彼女が感染しまして。
電話で頼まれました。
「こういうわけなんで、アニさん独演会でお願いします」。
それはオレじゃなくて布目さん(にぎわい座の館長)に言うべきやろ。
布目さんに電話したら、「え。そうなの」って言ってましたけど。
あと噺家タカラヅカですよ。
さくらさんが三味線落としまして。慌てましたけども横浜駅で出てきました。

浪曲界は人間国宝誕生で盛り上がってます。
我々にもチャンスですし、現に浪曲やってる私が言っちゃいけませんが、でも浪曲って本当にいい加減なんですよ。
幸枝若師匠は、刀を振りかぶったところでもって「ちょうど時間となりました。この続きはレコードで」。
私レコード欲しいと思い、楽屋に師匠を訪ねました。レコードどこで売ってますか。
そんなもんないがな。
これが浪曲界です。

浪曲というもの、そもそも古典も新作もないんですね。全部自分で作るんです。
ただ、最近は古典を大事にしようというふうになってきたようで。
今日の1席めは、桂三枝作「鯛」です。
と、新作落語原作。

続きます。

 
 

作成者: でっち定吉

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