古今亭今輔独演会@らくごカフェ(中)

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軽い会話が続く中、宿題をやらない言い訳がどんどんエスカレートしても、違和感ゼロ。
宿題の言い訳が、思わぬ方面から教師自身に波及してくる。
といっても、サスペンス仕立てでもなんでもなく、どこまでも軽い。

噺の構成としても上手い。スタート時は「日常の世界で日常の登場人物が行動する」噺なのである。
こういう新作落語も、特に上方に多いのだが、私は好きじゃない。
新作に限らず、落語には飛躍が必要だと思っている。
ところが今輔師のこの「オオカミ少年」、どんどん世界観が変容してくる。キャラクターを小出しにしてきて、最終的には「日常の世界における非日常の噺」に変わっているのだ。
いきなり大満足の一席。

一席終えて今輔師、この噺、池袋演芸場あたりで掛けていきますとのこと。
続いて七福神の噺。七福神は、インド中国日本、いろんな神様が集まっていますと。
クイズマニアの師、溢れる知識をちゃんと教養として落語に活かしているところが素晴らしい。
この日もっとも知的興奮を味わう噺であった。
この知的興奮という点、「天災」「二十四孝」あたりの古典落語にも通じる気がするのである。
世界観もまた、古典落語に通じる。

ちょっと気になったのは、七福神の中では影の薄い福禄寿と寿老人、私の知っているのと入れ替わっている。
頭の長い(劇中でも言っていたが、「手水廻し」みたいな)ほうが福禄寿だと思うのだけど、寿老人だと言っていた。
今輔師のことだから、間違いではなくて、こちらの知らない知識に基づいているものなのかもしれない。
まあ、もともと同一神なので混同されることもある。

菅原道真もそうだが、日本には怨霊信仰がある。ひどい目に遭わせた側が、遭ったほうを慰霊するならわしが。
出雲大社は、中央政府であるアマテラスが征服したオオクニヌシを慰霊するために作った壮大な神社である。
代々の天皇も、ひどい目に遭った人ほど、贈り名として「徳」の字が入ることが多い。
などなど、実に面白い話。このマクラ、別にギャグ入っていないのに。
こんな話続けていたらやめられなくなっちゃいますと今輔師。
なるほど、こうした知的興奮をストレートに味わえる人が、イマラーになるらしい。
しかし、教養をしっかり背景にしつつ、落語のほうは馬鹿馬鹿しいにもほどがあるのであった。たまらんですな、このギャップ。

話を進めるのはゴールデンハンマーを持った大黒である。七福神は縁起物の中では影が薄くなってしまった。
人気を取り返すために、まずはリーダーを選定しようと。各神、我こそはリーダーにふさわしいと立候補し、他の神をdisる。
鯛を抱えた恵比寿は情緒不安定。
実は超絶ギタリストの布袋はガラが悪く、懲役の身の上。
毘沙門天は、戦いの神のフリをしているが実はこれは弟のキャラ。本人はヘタレ。
弁財天はあばずれ。ジジイたちより女のほうがリーダーにいいだろうと言うが、正体は蛇女。
そして大黒の正体は、手が6本、顔が3つの極めて気持ちの悪い黒い神、マハーカーラ。

それぞれのエピソードには、ちゃんと裏付けがある。
クイズマニアの今輔師は、教養マニアのようだ。教養をこねくり回すと、やたら楽しくなってくる。
マニアの落語であるという点において、落語協会の新作派、柳家小ゑん師や古今亭駒治師にも相通じる部分がある。
落語を鑑賞するにあたって、なにかのマニアである必要性は特にない。だが、マニア性をまったく楽しめない人には、付いていけないであろう点も似ている。
マニア性を楽しむのは難しくない。知らない世界への好奇心があればいい。
新作落語好きは、すでにこの点をクリアできている気がする。
正直、この二作品で笑わない人は、大した落語ファンじゃないとすら思う。言い過ぎか。

一席終えて、この噺もまた、池袋演芸場あたりで掛けていきますとのこと。
池袋は新作まつりなどがある、新作落語の殿堂。芸協の人も、寄席で冒険するとなったら池袋なのだな。
二席とも、私の目には十分完成されていると映った。

続きます。

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作成者: でっち定吉

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