三席目は、柳家金語楼全集から引っ張ってきた噺。
金語楼は実に多くの新作落語を作ったレジェンド。「ラーメン屋」なんて今でも人気の人情噺。
この「変わり者」は、実際に高座に掛けられたことがあるかないかも不明だそうな。だが、今輔師は活字で笑ったとのこと。
新作も、すでにやっている人がいる場合は教わる。
同じく金語楼作品でも「釣りの酒」なんていう噺は、師匠・寿輔に教わって持っている。だが、「変わり者」はやっている人が一切いないので、自分で勝手に起こすしかないそうな。
復刻落語の第一人者、柳家喬太郎師が「擬宝珠」「綿医者」「仏馬」なんて掘り起こしてやっているのと一緒のようだ。
時代が合わない点だけ問題という今輔師だが、実に面白い噺。
時代を現代に移植することも可能だろうが、移すとシュールな新作になってしまい、金語楼作の看板が消えてしまうか。
社長の機嫌を取るという、変な仕事に就いた男。といっても幇間ではない。
めちゃくちゃな言動をし続けることで、社長が大喜びして給料がそのたび上がるのだ。だが、珍しくまともな返事をしてしまい、社長の逆鱗に触れて首になる。
その後釜に、友人が座る。
とにかく、社長を喜ばせるため常に前後の脈絡のないめちゃくちゃなことを言い続け、やり続けねばならない。これはやってみると実に難しい。
常識を揺すぶられる続ける噺なのに、旦那の稽古に協力するカミさんが古典落語っぽかったりもして、多面的に面白い一席。
それにしても、その前の二席もそうだが、爆笑なのに疲れない。
「ズシリと来る人情噺」で疲れるのは別にいい。
だが、寄席で掛かるのと同じ種類のいい落語は、だいたい疲れないものと思う。
仲入りを挟んで、ミステリー仕立ての一席。「1/4の完全犯罪」。
会社の同期が4人で飲んでいる。次にウェイターが出てきて、計5人。
そのすべてが男なので、描き分けが難しい。
なのでときどき、劇中の会話から登場人物が滑り降りて、自分は誰なのか、解説を挟みながら進む。
もっとも説明が入る理由は、「別に真剣に登場人物を区別しなくていいんだよ」という師のサインのようだ。
ボケキャラのひとりが最終的に重要な役割を果たすが、客はこのキャラもまた、記号だと思って構わない。
同期4人は、事故で亡くなってしまった男を偲んでいる。
亡くなった男は酔ってバイクに乗り、ピザ屋のバイクと正面衝突したのだが、この事故については他の4人ひとりひとりに責任があるらしい。
飲ませた男や、自分の家に呼んだ男、ピザを頼んだ男など。
そしてその湿っぽい飲み会の中で新たな事件が勃発する。
やたらと人が死んでいく噺。だがとても楽しい。
口から血を噴き出して死んでいくというのに、グロさは皆無。
これ、結構凄いテクじゃないかと思うのだが。
ちなみに師が語っていたわけではないが、「みんな死んでいく」という噺、グリム童話あたりによくある。
結構こういう噺は人に響くのである。なにかしら爽快感をもたらすのだ。
会の冒頭でも語っていたが、師のブログによると客を混乱に招く噺なのだそうだ。
でもどうしてもやりたいらしい。
確かにちょっと混乱を招く噺かもしれないのだが、それはどうやら、古典落語との距離感によるもののようだ。
ここまでの3席、かなり古典落語と接点を持っていた噺ばかり。ここで大きく切り離されるが、師はそれが好きらしい。
同期の死に隠されたミステリー、そして巻き添えを食ったピザ屋の兄の復讐。
ドンデン返しが続く。
既存の落語とは違う噺だが、最後バカバカしく終わることでバランスを取っているらしい。
大満足の2時間弱でありました。
私もイマラー宣言したい。またこの会に来たい。