新横浜コットン亭3(下・桂やまと「狸の札」)

過去に聴いた百川の書き残しを自分の記事で読み、改めてやまと師の百川がいかに優れているか実感した。
「関係ない要素がたまたま一致した」点を噺の肝、快としないのはエポックではなかろうか。

序盤から「ぴゃ」と返事をしながら座敷に登場の百兵衛さん。
しっかりマヌケだが、ひとはいい。
田舎もんを嘲笑う構造は含まれていない。これも現代にぴったり。

本来は落語の客も、百兵衛さんがなに言ってるのかわからないし、アニイ格がなにを早とちりしてるのかもわからない。
だが、次第にわかってくる。なに言ってるのかはわからないままでも、なにか誤解が生まれているその様子だけは。
「しじんけのかかえにん」は、「四神剣の掛け合い人」にも「主人家の抱え人」にも聞こえなくはない。
落語の客への、この伝わり具合が絶妙。
噺を知らない人に対しては当然そうだし、よく知っている人間にも、この伝わり方はやはり絶妙なのだった。

くわいのきんとん丸呑みは、かなりしんどそう。
食道を抜け、ようやく胃に落ちる描写がかなり具体的。

ところで、若い衆たちがやたら手を叩いてひとを呼んでいるのは、亀文字師匠を呼ぶためなのだった。
ストーリー的には当たり前だが、この構造が噺の中でストレートに伝わってきたのは、この百川が初めてだ。
そして百兵衛さんの正体に気づいた若い衆たち、非常に乱暴な指示をして送り出す。
「長谷川町の有名人でかのつく人」だけでわかると思ってるのだからおめでたい。
落語の客に、ああ、この奉公人にこの指示じゃダメだわ、というのが先刻伝わっている。
百兵衛さんも、指示された材料の中では頑張ってるのだが、町内の親切のおかげでかもじ先生に行き当たる。

百兵衛さん、噺の中でキャラ変を起こすこともなく、最後までマジメにすっとぼけている。
サゲは、「一から十まで間が抜けている」といわれた百兵衛さんが、指を折ってそんなに抜けてねえだとやってる。
やまと師、いくらなんでも呼ぶ人間違っておいて、名前が似てるんだからそんなに違ってないなんてのは乱暴だと思うのでしょう。

語り口は違うが、なんだか噺の呼吸が雲助師を思わせる。

仲入り休憩後のやまと師は、花ごめさんを立ててごく軽く狸札を15分。
休憩時に花ごめさん、チケット売ってましたがなんと1枚も売れませんでした。終演後も売るそうですからぜひと。

残念ながら、売れなかったのは1席目(たがや)のデキの問題だと思う。
それにしても、休憩時に後ろ振り返らなかったもので、チケット売ってることも私は気づかなかった。
あまり欲がないんだろうか。2か月前の志ん松さんは、かなり頑張って売ってたけど。
そして花ごめさん、トリの一席の前に、「1枚も売れてませんからどうか」と懇願することもなく。

やまと師の狸札は、いきなり「お前さんが昼間の子狸かい」から始まる。
一見ダイジェストっぽいが、この型でちゃんと仕上がってる。

八畳敷や、でかすぎるお札のシーンはない。
商人が掛けを取りにきて、手ぬぐいのお札を回転させる場面で、落語の客が「たぬきが目を回しちゃう!」と心配になるあたりは本当に上手いなと。

たぬきが逃げてきて、この後狸賽にでも行くのかなと思ったが、本当に短い。

トリは花ごめさん。
私は実際にあった怖い噺を最近語っています。稲川淳二ふうの。
自分自身では霊感はないので、人からもらっています。
皆さん、本当に怖い体験をすると思い出したくはないらしいですが、でも誰かに語りたい気はあるようです。
今日は古典の怖い噺をします。

期待した新作じゃなくて、もう半分。
舞台は千住だった。
爺さんが娘を売った50両を猫ばばしてしまうかみさんは、コツの女郎上がりらしい。
亭主とかみさんは天涯孤独。なんとか店を大きくし、ひと花咲かせたいのだそうだ。
亭主はひとがいいので、爺さんの金を知らんぷりして猫ばばできはしない。なので着物据わったかみさんが全部取り仕切る。
亭主は、売られた娘が可愛そうだなんていうのだが、女房のほうは、どうせこの後女郎になって男を騙すんだよと。
爺さんにはかみさんがいるらしい。この必要性はよくわからなかったが。

設定の工夫は見事なのだが、赤ん坊が生まれたあたりでまた寝てしまう。
別に眠くて仕方なかったわけでもない。そんなときなら仲入り休憩時に寝るので。
花ごめさん、わりとぼそぼそ語るのは柳家だから別にいいと思う。昨日書いたとおり、私は棒読み推奨派だ。
ただ、やまと師の抑揚豊かな高座と、悪い対比になってしまったかもしれない。

新真打の高座を確かめにきたが、今回はちょっと残念。
ただ、やまと師のすばらしさを再確認したのは大きな収穫。
スタジオフォーの四の日寄席もいいが、本来が独演会とか二人会向けの師匠なのでありましょう。

私服に着替えたやまと師がお見送り。
スタッフさんみたいだったが、どことなく芸人オーラは漂わせている。

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作成者: でっち定吉

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