拝鈍亭の瀧川鯉昇3(上・「千早ふるモンゴル編」)

雑司ヶ谷の拝鈍亭はすっかりおなじみの落語スポット。
今年もはや3度め。
毎年9月上旬の瀧川鯉昇師の会には3年前、2年前に次いで参戦。
自分の記事読み返し、過去2回ともいかにマクラが楽しかったか再認識した。
鯉昇師は、ネタ数は決して多い人ではない(その気になれば無数にあるだろうが)から、聴いたことない噺はそうそう出ないだろう。
それでも、ここなら唯一無二のマクラが聴けそうだ。
産経らくごの配信で、鯉八との親子会が流れている。最近は親子会といえば鯉八師とばかりか。
個人的には鯉昇・鯉橋親子会があれば行きたい。
今日9月1日は横浜にぎわい座の定席があり、主任が正雀、仲入りが鯉橋、さらに二ツ目が入船亭遊京さん。
2時間しかないのに2,900円もする低パフォーマンスの寄席だが、落協芸協混合なのが素晴らしいところで、こちらにも行きたかった。
だが、桜木町から護国寺へ1時間では着かないので、にぎわい座は断念した。

目白で仕事してからてくてく歩く。蒸して暑い。
台風の影響で少ないかとご住職も心配されたようだが、大入り。70人は超えている。

千早ふるモンゴル編鯉昇
お菊の皿つる子
(仲入り)
佃祭鯉昇

 

シークレットゲストは色物の先生でなく、林家つる子師。
売れっ子なのに日曜空いてたのかと思ったら、このあと浅草夜のトリ。
初日である。護国寺から田原町って行きづらそうだなと。

鯉昇師登場。
極端なタメは作らず、座布団に手をやり「このあたりの綿が固まっておりまして。年取ると筋肉がなくなるものですから、骨が直接当たるような塩梅で」。
今年も暑いところに加えて台風が来ました。
昭和34年に伊勢湾台風がありました。それ以来の大型台風ということでしたが。
伊勢湾台風の年は小学1年生でした。故郷浜松は伊勢湾から60キロしか離れていません。
我々の遊び場に椎の木が生えてまして。
5年生ぐらいになると木登りして実を穫って、分けてくれたりします。
この木が台風で倒れまして。
いつもお兄ちゃんたちに穫ってもらっている椎の実が、この年は取り放題でした。
隣に栗の木もありまして。
今度台風が来たら栗の実が穫れると思い、ワクワクしました。

このマクラを3日前に豊橋で振ったら、不謹慎だと叱られまして。
クレーマー全盛の時代ですが、私はもう、高座に出たらこの話はしちゃいけないとか、一切考えるのをやめております。
ここは結界なんです。この中で語ったことには、一切の苦情は受け付けません。

言葉は一見キツいが、実にふわふわ語る鯉昇師。
このフリ、このあと本編で機能する。プーチンあたりに。

4年に一度出す、オリンピックのマクラがあります。
オリンピックの年に思い出して掛けるんです。と、浜松の空を飛んで、五輪の輪を描く訓練をいていたブルーインパルスの話。
当時の子供はみな将来はヘンタイに憧れました。

このあと、「ヒコウに走りたい」と続くのであるが、ヘンタイに客が爆笑したため聞こえない。でも語る方も別に気にしない。

その当時の仲間のうち3人が夢を実現し、それぞれ違う刑務所に服役しています。

そういえばこのオリンピックのマクラ、4年前(3年前でなく)に聴いて、もっと長いバージョンで楽しんだ覚えがある。

最近昔のマクラはやらないのとお客さんに言われます。
思い出してお客さんの前でやるんですが、無反応です。
以前、レジでバーコードが登場した頃のマクラがあります。当時はまさにバーコードヘアでしたが、今の私にはもうできません。
レジの人が慣れてなくて苦戦してるので、何してるのと身を乗り出すと、バーコードに読み取られまして「100円」と金額が出ました。
このマクラしばらくやっていて、130円、150円と値上がりし、最後は180円でした。

虚々実々の話を語る鯉昇師に、今まで見なかった一面を見た。
現実の鯉昇師がマクラの最中に顔を出し、メタ的に「こんなマクラがある」ことを語るようすなど見たことがない。
これ自体、ごく普通の作法なのだけど。
作り込んだマクラを、現実との接点を持たないことでウケてきた鯉昇師が、新たなステージに入ったのでは。
まあ、寄席では引き続きやらない作法だろうが。

落語界の先輩は、古いしきたりについて尋ねると自信を持って「昔からこうやっている」と答えてくれる。
そこから知ったかぶりの本編へ。
千早ふる。
スタンダードな持ちネタをどんどん改良していく鯉昇師、最近は千早ふるは「モンゴル編」で固定しているらしい。

私がよく観たテレビの一席では、まだ竜田川はモンゴル出身の相撲取りではなかった。
そして、裸足でやってきた金さんに床の掃除をさせ、掃除が済んだんだから帰そうとするくだりは消えている。
この隠居、「百人一緒」と教えてくれる知ったかぶりだが、でも意外なぐらいの物識りでもあり、まったく後ろを見せなくなっている。
歌のわけは教えてくれないが、和歌はミソヒトモジなんていうんだといらない知識を与えてくれる。
なんと仕込みだった。

女絶ちを解禁した竜田川が連れて行かれるのは、南千住のロシアンバー「プーチン」。
金さんが、そんな名前いいんですかと気にかけている。
ロシアンバーで接客するのは、チハヤニコワとカミヨスカヤ。
二人とも竜田川には付いてくれない。

故郷で豆腐屋を営む竜田川、女乞食のチハヤニコワをヒマラヤの向こうまでふっとばす。
「水くくるとは」は千早ではなく豆腐が水にくぐる。この詳しい説明はあえて入れないが、地味に衝撃。
そして植村直己まで登場。

30分の見事な一席でありました。
改作なのに、古典落語としての楽しさもちゃんと残っているからすごい。

続きます。

 
 

作成者: でっち定吉

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