拝鈍亭の瀧川鯉昇3(中・つながるマクラ)

昨日書いた鯉昇師の「結界の中で語ったことには責任は負わない」であるが。
弟子・鯉八がマクラで「大谷骨折して欲しい」と語り、それを世間に広めたブロガーをたしなめているのだと解釈できないこともない。
今でもあのマクラ、不快感は変わらないし、鯉八への評価も低下したままだ。
事件の結果、高座を極めて客観的に観察するようになって、間接的に評価下がっちゃったんだけど。
まあ、それはそれ。

続いてシークレットゲストの林家つる子師。
当日にならないとわからないみたいだが、なぜこうするのかな?
さて抜擢真打なのに、私は披露目もスルーしてしまった。
自分で選んでは聴きにいかない人だが、この回のゲストと知って喜んだ。
なのだが、鯉昇師を聴きにきたモードからすると、なんだか異物をぶつけられた気がしてしっくりこなかった。これが正直なところ。
おもしろ美女が高座で躍動してるのを観るのは嫌ではない。
だが、なんだか演者と視線を交わすのがはばかられるようになり、途中から姿勢のいい前席の人の影に隠れて聴いていた。
演者に「あの人楽しんでないな」と思われるのも本意でないので。私なりに気は遣うのです。

お菊の皿って比較的いじりやすい噺だろう。それをいかにもなアレンジするつる子師。
お菊さんが言い交わした「三平」は脱線して膨らませる。
冒頭部分の隠居に話を教わりに行くエピソードはまんま抜いて、地の語りから始まる。効果のほどはよくわからない。

この高いテンション、ずいぶん前に新作まつりで「豆腐屋ジョニー」を聴いたときはすごくハマったなあと思い出す。
ちなみに代表作のひとつと思われる「反対俥」だと、悪くないという感じ。
今回のお菊の皿については悪いが脱落。

つる子落語を喜んでる人の気持ちがわからないわけではない。
でも、他人の笑い声を探る限り、このゲストを異物に感じた人も拝鈍亭の客の中にいたと思う。色物の先生との違い。

でっち定吉も抜擢反対派なのか? 違います。
抜擢を決めた落語協会を非難したりなどしてません。
ただ、抜かされ組のほうに期待してるのは確かだけど。

仲入り休憩後はまた鯉昇師。
美女芸人も悪くないが、私はギョロ目ツルッパゲの愉快なおじいさんのほうを好む。しかしながら声は男前。
時間15分オーバーして大ネタ、それも意外にも、師の持ちネタと知らなかった佃祭だった。
ちなみに2席めのほうが、口を開くまでの間が長い。

つる子さんは、浅草に向かいました。
追っかけたい方は、今出れば間に合います。来られたほうは嫌かもしれませんが。
たまにびっくりするような追っかけの方がいらっしゃいます。私の場合はそうでもないですが。
昔志ん朝師匠が鈴本の出番を終え、横浜にぎわい座に向かいました。時間はギリギリです。
にぎわい座の高座に出たら、前列にさっきまで見た顔があって。それでもう労働意欲が削がれたそうです。
我々そもそも労働時間が少ないですが、それでも飲みすぎたりして体を痛めることはあるので、一度ちゃんと診てもらおうと思いました。

人間ドックの話。これは師の定番マクラ。
行く前に仲間に脅かされる。頭がカラッポだと、レントゲンで病院の裏庭が映るんだ。
幸い、裏庭はうっすらとしか写っていなかったからまだ大丈夫。
そこから医者の乏しい時代の神信心に話を持っていって、とげぬき地蔵の話。
トゲの刺さった部分に御札を巻いておくとよくなる。でも、トゲ抜いてからのほうがいいんじゃないか。
そして歯痛。
戸隠さまの願掛けの話を丁寧に。
ということは、佃祭なのだろう。
しかし梨のことを「ありの実」と言うところから、縁起のマクラがまた始まる。

実に見事な構成。
聴いた翌日になると、2席目の鯉昇師は定番マクラの何話してたっけと、いったん忘れていた。
だが、戸隠さまから次々とつながって全部思い出した。鯉昇師が、ちゃんとネタがつながるよう細心の注意を払っているからである。
喬太郎師もそうなのだが、噺家のマクラの構成の巧みさを、もっと私は語りたい。
録音が禁止で、メモが野暮な以上、マクラの巧みさを語ろうとするなら、覚えて帰ってくる以外にない。
高座のもようを書きすぎるとかつて人気ツイッタラーから非難されたものだが、プロから非難されたことはまだない。
現状のやり方ならOKなんだと思っている。

縁起は楽屋の掟。「する」は忌み言葉で「あたる」という。
教わった前座が、翌日からスリッパを「あたりっぱ」。
これも定番だが、鯉昇師は「楽屋でよくあること」として語るのである。普通は「こないだスリッパをあたりっぱって言ったやつがいまして」なんだけど。
最近は茶柱も若い人はわからない。お茶パックから茶が洩れてるわけだから、むしろ不吉なんじゃないか。

段階を踏んで佃祭。
この人情噺を、縁起からアプローチするとはひと味違う。
ひと味違うタケヤみそ。タケヤみそは信州。信州は戸隠さま。

明日佃祭だけで1日分作れるか不安ですが、続きます。

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作成者: でっち定吉

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2件のコメント

  1. 鯉昇師のまくらの楽しさが伝わってきて、面白かったです。
    つる子さんは、相当聴いていますが、毎回、反対俥とお菊の皿ばかりなので、行くのをやめ、披露目もパスしました。
    抜擢されるほどではないと思います(個人の感想です。)。
    抜かれた人たちに、好きな人がたくさんいます。
    来年の披露目は、誰のトリに行こうか、迷うほどです。

    1. ご感想ありがとうございます。
      落語好きの感性もいろいろあって当然ですが、わかっていただけると嬉しいですね。
      だからといって別につる子さんのスター性にケチつけたいわけではないですし。
      抜かされ組も本当に頑張って欲しいです。

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