この日の客は、演者がメクリを替えて楽屋に帰る際には拍手しないと決めてるらしい。
いち早くそんな作法が確立したので私も従う。
まあ、確かに不要ではあるが、余韻というものもあるけれど。
2番手は立川志のぽんさん。
3年連続で、年イチここ連雀亭で聴いている。トリの大ネタは未聴。
夏は夜に連続独演会やってたりした。それも来たかった。
二ツ目だが、ベテラン感があり、貫禄も出る47歳。
キャリア19年だから、連雀亭メンバーでは一番のキャリアのはず。
真打にならないことにいかなる事情があるのか知らないが、間違いなく上手い人。志の輔一門の中でもかなり。
あまり聴いていない立川流にはコメントしづらいが、あの中でも相当上手い人と思うのだが。
そして、ある種のスタンダードに見えつつ、その実どこにもいないタイプの人。
マクラはメガネ掛けて萬橘方式。
今度の日曜日(ちょうど今日だ)、新婚さんいらっしゃい!に出ることになりまして。
収録が終わって、ディレクターがいろいろヨイショしてくださって。
師匠のコメントがよかったとか、まあ、私自身のトークはひとつも褒められませんでしたけど。
でも、夫婦漫才みたいでよかったって言ってもらえたんですよ。妻は、本当に漫才だったら別の相方と組みますって答えてましたけど。
先週の新婚さんいらっしゃい!は三遊亭ぽん太さん。番組のことはニュースにいろいろ出てて、知ってたのに見逃した。
なんでもぽん太さんが番組から、他にも新婚の噺家さんご存じないですかと訊かれて紹介してくれたんだそうだ。
「ぽん」つながりだって。
ぽん太さんとは所属団体が違いますけど、別に対立しているわけではありませんだって。
自分は新婚ですが、昔は奥さん以外にお妾さんを持つ人がいまして。
新婚さんの番組から、妾の古典落語に進むシャレだ。
2号さんなんて呼び方もあり、中には3号、4号と、ついには28号まで持ってる鉄人みたいな人までいまして。
渋沢栄一がそうだったみたいですね。ならお札にするなよと思いますけど。
ここでメガネ外して本編へ。
冒頭がずいぶん長い権助提灯。こんなの聴いたことがない。
こんなのが少ない理由は簡単。とっとと権助付きで主人を家から出さないと、この楽しい噺はスタートしないからだ。
でも夫婦のやりとりが長く、なかなか家から出ない。
いきなり言ってみればダレ場である。だが、志のぽんさんには全然へいき。
ダレ場を語る能力の持ち主だからだ。
そして、その能力がどこから来るかというと、セリフのかなりの部分をアドリブで作り上げているからのようだ。
もちろん肚に噺は入っているが、セリフで入ってはいない。
たまに甘噛みするが、それでもスラスラセリフを繋げていくので、ダレ場なのに思わぬ高揚感が湧いてくる。
二ツ目に対する、普通の感想はむしろ逆。
ダレ場が妙に長い若手には「編集しろよ!」と思うのだけど。
前回、志のぽんさんの語尾が消えてしまうのがやや残念と書いた。もうそんなこともなく。
ちょくちょく噛むなとは思うが、だんだんと、そこまで含めていい感じ。日常会話だって噛むのだから、必ずしもそれでスムーズさを欠いたりしない。
昔は妾を囲う旦那がいて、そして女の戦いがあって。さらに田舎から出てきた奉公人がいて。
そういう世界の構築には時間を描ける。
だが、細かいクスグリは意外と抜いている。権助が旦那をからかったりするあたり。
スタンダードっぽいのにどこにもない古典落語。
序盤が長かったのに、別にふくらませてもよさそうな妾宅のやり取りなど、ばっさり短くしてしまう。
その気になったら権助提灯5分ぐらいでできそうなのだけども、人と違う、膨らませるポイントを見つけたということなんだろう。
実際、そんなクスグリが。
権助は、本宅に帰ってきて提灯の火を消さない。「消さずに待ってただ」。これは普通。
そのあと妾宅に向かいながら主人に叱られる。消せばロウソクが1本で済むのに、消さないから2本要る。ムダだろう。
おめさまよく言えるだね。おめさまも同じことでねえか。
考えてくじける主人。
この部分、あっさり入ってることはたまにあるが、あっさり入れつつインパクト満載。
楽しく夜が明けた。