池袋演芸場33 その2(浅草になった池袋)

圓楽襲名のニュースで1日空きました。
今日は昔話ふうのサブタイトル。

柳家小志ん師はなんと4年ぶり。
今日のお客さんは忙しすぎもせず、暇すぎもしない方たちですねと。
本当に忙しければ来ないし、本当にヒマならいつでも行けるから来ない。
なんだかな。忙しくても暇でも、あんたにコスられたくないなとちょっと思う。
こういうのは、言ってる側がバカになってないとすぐ不快になる。バカになるのは技術。
本編は好きでない家見舞。嫌いなのは別に清潔好きだからではない。
ちょうど眠気がやってきて、睡眠タイム。
言い間違いで「焼肉」が出ていちばんウケたらしいが、なんのことか。

続いて寄席の名セットアッパー、柳家三語楼師。
ボウズ頭やめたんだ。長髪でなんだか調子狂う。
やかんなめが、やたらウケてた。
やかんの頭のお旗本の、心中描写がいいのだろう。
極端な早呑込みの人ではない。
人助けぐらいしてやりたい気持ちと、直参ともあろうものが頭をべろべろ舐められる屈辱とに挟まれているのだった。
家来の可内、いつに増してちょっと笑いすぎじゃないかと思ったが、でも新たな解釈が見えてきた。
この家来は曽呂利新左衛門のような知恵者であって、主人が突然置かれたあまりにもな状況を、積極的に笑い飛ばしてやろうとする忠義者なのだ。
主人だって、そのおかげで屈辱にまみれたままではいないのだ。

池袋下席は、4人落語が続く。
色物は、最近よく名前をお見かけするカンカラ三線の岡大介先生。
大阪のラジオからも名前が流れてきたぐらい。
あくまでも印象だが、落語協会の色物というと、今はウクレレえいじか岡大介か、くらい。
私は初めて。
ちなみに「おかたいすけ」であり濁らない。聞いて驚いた。

3,000円で自作したカンカラ三線で、古い曲を歌う。
オッペケペ節まで。自由民権運動の頃のヒット曲。演歌の元祖なんだそうだ。
オッペケペ節や東京節に乗せて、現代の金権政治を痛烈に批判していく。
ソッチ側の芸人かと思うと、「私は右翼でも左翼でもありません。無欲です」とあらかじめ断っているのが上手い。
紅白歌合戦にも出たいが、メッセージ強すぎたら紅紅歌合戦になってしまいますねなんてネタでバランスも取っている。
でもやっぱりこの風刺、左寄りの人から大いに喜ばれそう。
もともとカンカラ三線自体が、米軍統治の中で生まれた抵抗の文化であるし。
近日中に立川談四楼師匠が自分の会に呼びそうに思う。

次は古今亭駒治師。
鉄道唱歌の出囃子で登場し、挨拶するが、下手(出入口付近)がなんだかざわざわしている。
B列下手から5人ほど婆さんの団体が入っている。このうち2人ほど、外に出たいらしい。
仲間をどかせ、そして下手に立つついたてをどけて出ようとする。
その間、なんやかやと口開きっぱなし。
出るんなら入れ替わりのときにさっさと出ればいいのに。

駒治師、語り出した話をやめ、「えー、ここは間違いなく池袋なんですけども、なんだかあの辺りだけ浅草ですね」。
客爆笑。

いやほんとに、浅草だったらこんなの平常運転。私もたまに浅草行くときは最初から覚悟している。
でも池袋、特に落語協会のときは極めて珍しいふるまい。
客も寄席の風景を一緒に形作ってるわけで、客の頓狂な行動は寄席を壊す。わからない人には一生わからない。
駒治師が客いじりでウケてるその間も、婆さんたちはずっとマイペース。照れるでもなく、恐縮するでもなく、ずっとゴソゴソやっていた。
駒治師、しばらく婆さんたちの動きを見ながら喋っていたが、「私もう一回出てきましょうか」。
ますます大ウケ。
で、本当に袖から出直すのだった。お囃子さんもすぐ反応。
客も一体となって大きな拍手。
悪ノリして「待ってました」も複数飛ぶ。
お辞儀をして、「はじめまして」。

この一連の流れ、ひょっとすると「演者が客に恥をかかせた」とそう捉える人もいるかもしれない。
全然違いますから。
むしろ逆で、客の不作法を笑いに変え、変な空気を一掃した見事なワザである。

駒治師はおなじみの、学校寄席で書いてもらった生徒の作文ネタに入る。
だが、なんとたもとから取り出したカンペが間違っていたのだと。粗忽か。
カンペないとできないネタなの? そんなことないと思ったけど。
私カンペを間違えてしまいました。仕方ないので、このカンペのネタをと断り、迷惑鉄のニュースに反応する痛いテツの話。
「この記事はまったく間違っている。キハ51系は電車ではない、軽油を燃やして走るディーゼルカーだ」。

取り返したのに、前半で持ち時間を使ってしまったせいか、やっぱり生徒の作文に入るのだった。
古い芸協新作のガワを用いた、駒治師のオリジナル。
ご本人いわく、「こんなに帰りたい高座は初めてです」。

生徒の作文は2本だけだった。
1本目が組事務所の坊やの純真な作文。
2本目が、東横線づくし。渋谷から元町・中華街まですべての駅名を織り込んだ、男の子のラブレター。
フレーズ好き、言立て好きの私は覚えたい。活字にはならないと思うが、いつかテレビでやる日を楽しみに。
そういえば駒治師、NHK演芸図鑑に呼ばれたことないみたい。こんなに面白いのに。
なら、鉄オタ選手権ででも呼んでもらえるといいですね。

続きます。明日も駒治師から。

 
 

作成者: でっち定吉

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