咳はだいぶ良くなったので予定の席へ。
前売り買ってなかったらパスしたろうが。
鶴見サルビアホールの二ツ目の会。2年振り。
2年前は春風亭かけ橋さんだった。
今回は売り出し中、いい名前をもらっている桂銀治さん。昨秋二ツ目昇進だが、キャリアに関わらず上手い人は上手い。
神田連雀亭にも顔付けされたので、今後も定期的に聴ける。
京急鶴見駅の高架下に鶴見食堂という、焼き牛丼が旨い、松屋プチグレードアップ版みたいなお店がある。
ここでお昼食べようと思ってたら、6月で閉店しましたという張り紙が。無念。
サルビアホールは「LINEチケット」で、手数料なしでQRコードを発行してくれる。2年前にはなかった。
スタッフの人がスマホでQRコード読んでくれてすぐ入場できる。
木戸銭は800円に過ぎないが、やるとこはちゃんとやってるね。
他の行政主催の会も、寄席もみな見習って欲しいものだ。
雨の中、大盛況。定員100人がかなり埋まっている。
饅頭こわい
尼恋(あまこい)
不孝者
銀治さん登場。
桂が上に乗っておりますが、地毛です。まだ10年は持つと思います。
前座の頃「伸ぴん」だった話。
このサルビアホールは、師匠・伸治に入門が決まっていた時期に付いてきたことがある。
でっち定吉も参加した、5年前のさるびあ寄席特別版である。
師匠は「宿屋の仇討」を掛けていた。
その記憶を遡り、大ホールに行ってみたら関係者以外お断りと言われた。
今日は大ホールじゃないんですね。大ホールでできるよう頑張ります。
宮崎の延岡出身ですと語り、地元のネーミングセンスの話。
やしの木をフェニックスと言い、空港はブーゲンビリア空港になった。
ブーゲンビリアは県の花なのかと思ったら、県花はハマユウ。
それと学校寄席の話。
手ぬぐいも紹介。ちなみに、扇子は真打になったときに作るのが普通なので、持っているのは他人の。
これは三遊亭わん丈アニさんのです。
手ぬぐいは二ツ目になったときに作ります。今日は皆さんに、この手ぬぐいを、ぜひ見ていただきます。
広げてみると、モアイが海岸にズラッと並んでいる。
これ、本当に故郷にあるんですよとのこと。
うーん、18分のマクラに、さほどパンチがないな。
パッケージ化された楽しいマクラはまだ持っていないみたい。
ただ、語り口が実に素晴らしい。テンポの上げ下げと、セリフの先取りにグッと来る。
一席目は前座噺で饅頭こわい。
好きは飛ばして(先日言い合ったんだそうだ)怖いものの言い合いから。
嫌味なテツが出てくる。四つ足だったら何でも食うのかと言われて、「あたるものは食わねえ」。
ここ、この噺ではテッパンで受けるところと思っていたが、この日の客の反応は今ひとつ。
やはりマクラを引きずったのだろうか。
ただし、「アン殺」はウケてた。よかった。
くず饅頭(投げつけてプルプルさせる)や、テツが死んじゃったら行けないので医者に走っていく野郎がひとりいるなど、この展開に既視感がある。
誰のだっけ?
なんのことはなくて、昨年12月に池袋でご本人から聴いたのがこの饅頭こわいだった。
その際はかなり褒めた。今回が悪かったわけではないけども。
この会は、みなさんおおむね3席されるそうで。
そうなると、2席で済ませたら手抜きみたいですよね。
残り時間を考えると、短い一席が欲しいですね。
探したらあったんですよ。珍しい噺です。ただ、やる人がいないというのはそんなに面白いわけでもないということで。
と振って、無筆の噺。
無筆の噺でレアものというと、「三人無筆」ぐらいでは。
そうではなくて、私も知らなかったが「尼恋」とのこと。雨乞いと掛かっている。
無筆の男が恋文を代筆(中身も考えてもらう)が、振られてしまう。
なんでも、「本日はいいお天気ですね」が百回繰り返して書かれていたのだという。
途中一瞬寝落ちしてしまったので詳しいことは書かない。
サゲはキレイに落ちるのだが、演者も「まあ、コスパの悪い噺ですね」とのこと。
しかしここまでをフリと考えたくなるほど、最後の一席は素晴らしいものだった。
この1時間の会の構成、緻密に考えた結果前座噺と短い珍品を挟み、トリの一席をおとなの噺で見事に締めて大団円。
若旦那を残して飯炊きの清造だけが帰ってくる。
どうせ外で遊んでるんだ。あんな奴を使いに出すんじゃなかった。
清造の汚い服を身に着けて、旦那は茶屋に若旦那を向かえにいく。
「不孝者」である。
二ツ目になって1年弱でこんなもの仕込んでるとは。
昨年聴いた三遊亭王楽師のものとほぼ同じ。そちらに教わりに行ったのだろうか。
ぺこぺこしながらも物置に閉じ込められ、燗冷ましをあてがわれて旦那はご機嫌ななめ。
元は俺の懐から出たカネであつらえたものじゃないか。自分の手銭でやってるのと変わらないとブツブツ。
若い銀治さん、旦那の風格なんてもちろん出せない。
でも、妙にハマっている。無理に貫禄を出そうなんていうんじゃなく、若さに伴う要素を引っ込めていると、それらしく見えてくるのだろう。
間違えて戸を開けたのは、旦那のかつての囲い者、芸者の欣也。
旦那に捨てられた、と思っている欣也は、恨み節。こっちはもう最初から上手い!
恨みを旦那に聞いて欲しくて、でも女の意地もあるその造形がバンと前面に出た!
旦那は、捨てたくて捨てたかったのではないが、行動を言い訳したいわけではない。
それよりも、やむなく手放した欣也にまずは幸せになっていて欲しかったのだった。
不孝者は、王楽師のものを聴いたときも思ったが、「間の悪さ」をしみじみ実感する噺。
男と女の行き違いはすべてやむを得ない間の悪さから来ている。
ようやく悪かった間を取り返す段になったところで清造を呼ぶ声がするという、すばらしい構成。
前半はなんだかピンと来ないなと思っていたお客もいたろうが、これ一席で取り返して余りあった。
桂銀治、見事な表現者。
大満足です。
終演後は握手会とサイン会だって。さすがにそれには参加しません。