小ゑん駒治鉄道落語会@お江戸日本橋亭 その1

《小ゑん落語ハンダ付け》
駒治・小ゑん/ トーク
前座
小ゑん   / 鉄の男
駒治    / 十時打ち
(仲入り)
駒治    / (ネタ出し)旅姿宇喜世駅弁
小ゑん   / (ネタ出し)トニノリ

私にしては珍しく、早めに予約しておいた会。
大ファンの柳家小ゑん師、池袋と黒門亭で聴くことがほとんど。
師が二席やる会というものは、実は初めての気がする。
小ゑん落語ハンダ付けのゲストは、この人も大ファン。古今亭駒治師。
二人の鉄道落語会である。これは行かなきゃ。
開演前、結構早めに行ったのだが、日本橋亭の前は大勢の人だかり。
整理券をもらって順次入場。立錐の余地もない大混雑。
集まったお客さん、別に鉄道落語ファンという風情ではない。
ややシニア寄りの、マニア度はやや高いファンという趣。
マニア度といっても、「落語」のである。小ゑん師が落語で描くような、マニアっぽい人はいない。
俺は落語なんて知り尽くしているぜ的な、いやらしいファンは見当たらない。
女性も多い。生活に、金銭的なものだけでなく精神的な余裕のありそうな方ばかり。
そうか、この日集まったファンたちこそ、真の小ゑんファンの姿なのかもしれない。
師の会には、こうしたファンが集結するのか。初めて知った気がする。
そして、その品のいいファン層の姿、師の落語スタイルから、妙にうなずけるものである。

入場に時間が掛かったため、すぐ開演。
早速トークから。
二人の師匠、マニア度の高い会へようこそと。
駒治師は、相変わらず乗り鉄だそうな。全国にあまたある「○○前」という駅に出向いているとのこと。
そういえば、未聴なのだけども駒治師には「はるかなるよみうりランド」という噺があるそうで。
小田急の読売ランド前駅のことなら知っている。あれは全然「前駅」ではない。

いっぽう小ゑん師は、やはり機械やモーターが好き。でもついでがあれば乗り鉄になることもある。
小ゑん師、子供(「ジャリ」だって)を連れ、廃止になる寝台特急「あさかぜ」に乗って、列車の中でNゲージの「あさかぜ」を走らせたことがあるそうな。
電源は電池式で自作して、寝台の下で走らせたところテツの大人たちから大好評を博したとのことでした。

この後、前座の新作。
私は前座について厳しめに書くときは、名前を出さないことにしている。
すばらしい会において、ちょっといただけない一席でした。
この前座さんには何度か遭遇しているが、ウケたくて仕方がないらしく、それで失敗する人だという印象を持っている。
いい前座さんは、だいたい変な欲がない。そのほうが結果的にはるかにウケるのだが。
この人の新作を初めて聴いたが、古典と同じくなんだかなという印象。

語り口以前に、設定が根本的に間違っている新作。
素人、それも昨年の落語協会新作台本募集に応募して落っこちてる程度の私が言うのもなんだけども。
山の中で遭難し、鍵の掛かっていない小屋を見つけてそこで飲み食いし、寝せてもらう。
そうすると、朝方に番人がやってきて、戸を叩いて開けろと言う。
設定が無理やりすぎてわからない。なんで勝手に上がり込んでる連中が、カギを掛けて寝ているのか?
そもそもなんで番人が朝になって帰ってくるのか?
勝手に飲み食いしたのを兄貴分のせいにするのはいいとして、なんでその兄貴を縛り上げて捨てにいくことになるのか?
なんでこの兄貴は縛られてもまったく目を覚まさないのか?

繰り返しのギャグを活かしている点など、光る部分もあると思う。
ちゃんと作れば面白そうな気がするのだが。
でも、ちゃんと作るためのハードルが高そうな気がする。人間の行動に関して、常識が身についていないのではないか。
シュールな落語と思えば、面白く感じる可能性があるかもしれない。弟分が、一晩寝るとみんな忘れてしまっているあたり。
だが、シュールな設定なんだという枠組みが確立しているためには、常識を踏み外しているんだという描写がなければならない。
兄貴を捨てにいくにあたり、常識を踏み外している描写がない。だから噺が感覚的に把握できない。

いきなりちょっとがっくりしたのだが、残りの4席はそれはそれは素晴らしいものでした。

続きます。

作成者: でっち定吉

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