神田連雀亭ワンコイン寄席24(上・立川笑二「初天神」)

笑二  / 初天神
A太郎 / 不動坊
一花  / お菊の皿

2日前に出向いたばかりだが、またしても神田連雀亭ワンコイン寄席へ。今日は仕事の隙間ではない。
こちらは、私のスケジュールにわりと以前から入っていた。
3人揃っていい顔付け。
そして高い期待を上回る、すばらしい1時間でした。

開演前に行ってみたらすでに満席で、テケツのエリアにまで補助椅子が置かれている。
モギリ担当の春風亭一花さんが、客の相手をしながらさらに通路に補助椅子を並べる。
のんびりしているようで、テキパキしている人だ。前座の頃は楽屋でさぞ活躍したんだろうと思わせる。
トリの一花さんの集客?
前回、林家つる子さんのときにこんなのを経験したが、あちらは男性客ばかりだった。
この日は女性も多いので、成金ファン、昔昔亭A太郎さんのお客もかなりいるのだろうか?
びっしりと、狭い連雀亭に50人ほど入ってスタート。

立川笑二「初天神」

この日も前説なく、トップバッターの笑二さんが簡単に諸注意を。
学校寄席のマクラ。
秋になると芸術鑑賞会の名目で、学校に読んでもらえる。
故郷・沖縄の小学校にも出向いた。小学校が一番ウケるのだと。
ただ小学生の笑いのツボは何度やっても不明。
「隣の空き地に囲いができた」ではバカウケなのに、「鳩がなんか落としたよ」はシーン。
どう考えてもシステム的に一緒だろうと。
あと、桃太郎小噺も冒頭から爆笑なのに、「お爺さんは柴を刈らずにくさかった」でシーン。

高校の場合は偏差値によってウケが違うと、噺家さんがよく語る体験談を振ってから初天神へ。
よく笑う子供が客席にいたからこの演目か?
そんな配慮する人かしら。なにしろうちの子のときは廓噺をぶつけるんだから。
と思ったら、この初天神がすごいデキ。いや、よかった。
春風亭一之輔師みたいに、現代的なツッコミを入れてウケるわけではない。
古典落語の世界観は完全に維持する。それと矛盾する言動は一切生じない。
そしてそこに、その世界観と矛盾しない豊富なクスグリをぶち込む。
一昨日は、柳家小もんさんの、従前から存在する先人のクスグリだけで乗り切る落語にうならされた。
それとはまったく違う方法論なのだけど、どちらも古典落語の世界観を壊さないという点では変わらない。
噺を作るのがとにかく上手い人なのだ。
古典落語を、世界観を保ったまま新たに再構築してみせる人、そうそう知らない。春風一刀さんに感じたぐらいで。
噺を作れる人は、得てして新作のほうに行ってしまう。でも、古典落語にだって創作力は必要なのだ。

この金坊、親父のことをとことん舐めている。
親父のほうは、舐められているのはわかっているが、それでも無理に親父の威厳など保とうとしない。もっぱら自分の感情にまかせて行動している。
なんだ、我が家の父子関係と一緒じゃないか。
笑二さんって子供いた? 結婚してた? どちらもまだだったと思うが。
なんでこんなに子供の観察力が高いのだろうか。

初天神と真田小僧、子供の名前は同じ金坊。だが、性格は全然違うんだからごっちゃにしちゃダメだよなんて教えが、落語界にはあるようだ。
私もまったくその通りだと思うのだけど、笑二さんの初天神の金坊、むしろ真田小僧に出たほうがぴったりくる。
にも関わらず、初天神の世界観に矛盾を生じることは一切ない。既存の噺の枠組みを使いながら、隅々まで細かい配慮をしているから。
親父が「カッパに頭から噛まれるぞ」と脅していても、この金坊、「ひゃー怖い」。もう、大人の嘘に反論しないという舐めっぷり。
先人たちとは違う型だが、それでもやはり、生き生きしている愉快な子供がそこにいる。
親父のほうも子供みたいな人。飴屋では一瞬味見をして見つかったり、団子を嘗めまわす例のシーンではどさくさに紛れて一個食っちゃったり。

面白くて幸せになる初天神。聴いて元気になる落語。
笑二さんを聴くのはこれで4席目なのだが、毎回違う顔を見せる人。まったく底なしである。
しかも結構貫禄がある。ベテランみたいな風格すら感じたりして。
これはたまらないな。連雀亭以外でも聴きたいものだ。

続きます。

 

作成者: でっち定吉

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