神田連雀亭ワンコイン寄席23(下・柳家花飛「ぞろぞろ」)

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柳家花飛「ぞろぞろ」

二番手は花飛さん。
昨年はよく聴いた人。数えたら4席。
私が花緑一門を褒めたたえてやまない理由になる一人でもある。
今年の正月以来。それが大外れの席だった。この人だけでなく3人討ち死に。
原因は、演者3人の不用意な「笑ってください」発言にあったと私は思っている。

その大外れの3人、残念ではあったがもともと腕を認めている人ばかり。なのでその後避けたということもない。
実際このうちのひとり、三遊亭兼太郎さんについては、先日ここ連雀亭で、すでにいい高座に遭遇して取り返した。
正月のその席で、トリの花飛さんはなにを掛けたのだろう? 当ブログは日記替わりでもあるので、書いていないともはや思い出せない。
「笑ってください」と言っておきながら人情噺に逃げたことだけ覚えている。別に人情噺が嫌いなわけではない。

今回は非常にこの人らしい、低めの声と抑制の利いた味で大満足。
また、「ぞろぞろ」という地味な噺を、この持ち味がよく活かす。
地味な噺を好む人だが、ニンが合うのだろう。他の演者と個性がほとんど被らないから、将来寄席で重宝されるはず。

マクラでは、昨日休みだったので今日のために渾身の稽古をしようと思ったのですがしませんでした。すればよかったと思いますだって。
笑いを無理に狙いに行ったりしないこのたたずまいが、かえってやたら面白い。
自分をよく知るこの噺家、ユーモアのセンス自体は非常に高い人だと思っている。

ぞろぞろにはハッカ飴のシーンがある(花飛さんは「ハッカ菓子」)。
あまり売れないので、あっちこっち移動しているうちに角が取れて丸くなってしまったというくだり。
ハッカの親も喜んでおりますという。
これ、個人的にすごく好きなフレーズ。大したクスグリでもないけど、非常に落語らしく好きなのだ。
どこまでも抑制の利いた花飛さんが語ると妙に楽しい。
一箇所だけ、オリジナルギャグが入っていた。
わらじが増えて有名になった茶店の行列が、どこまで続いたか。
地球の裏側ブエノスアイレスまで続いたんだって。それまでと同じテンションで堂々こんなギャグを語ってから、「そう記録されています」だって。

立山幸之進「家見舞」

初めて聴いたトリの幸之進さんだけ、よくわからなかった。
嫌いとかダメなどとは言わない。既存の落語のスタイルに例が見当たらない感じで、私の腑にピタッと落ちなかったというか。
一見めちゃくちゃ個性的な芸には見えないのだけど、意外と他にない芸。
明るいのだけども、明るさにまかせて突っ走るのではなくて、ちょっとだけ高いテンションを維持しつつ、堅実に進む感じ。

この人は、師匠・談幸、兄弟子・吉幸と一緒に芸協に移籍して、前座を2年間やり直した苦労人。
マクラでは、「今日は、昼席のおかげでこんなに入りましてありがとうございます。我々は前座です」と情けないことを。

今日の家見舞は、二ツ目時代の吉幸師から聴いたのと出どころ同じもの。ただし、瀬戸物屋のくだりがなく、いきなり道具屋から。
道具屋の主人は、最後まで水瓶として使うことに反対している。そして、川で洗うシーンがある。
アニイは母親と二人暮らし。
水瓶は普通、見た目だけは立派だが、この水瓶は、アニイが見て驚くぐらい汚い。

ひとつだけ、演出の上で明確によくないなと思ったのが、弟分たちが瓶や手の臭いを嗅いで「臭い」というシーン。
計2回。
臭いなんて明確に言う家見舞は聴いたことがない。明確に言わないところがいいんじゃないかと思うのだが。

それと全般を言うと、最初から「アニイを騙す」噺になってしまっている気がする。
なんで世話になっているアニイを騙そうとするのかが、よくわからない。
まあ、この噺自体の根本的問題でもあるのだけど、それでも吉幸師の家見舞には感じなかったのだが。

幸之進さんは今一つわからなかったが、3人中2人が明確によければ、満足して帰れる神田連雀亭でした。
表には昼席の整理券を持った人が集まっていた。

作成者: でっち定吉

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