昔昔亭A太郎「不動坊」
A太郎さんは、太鼓に乗って登場。なんでもCDの調子が悪かったとかで。
ヒゲをたくわえている。ヒゲの噺家など、古今亭寿輔師しか知らないなと思ったら、ドラマの役作りなんだそうで。
You Tubeで近代史もののドラマをやるが、主役に抜擢されているのだそうだ。背も高いし、いい男だからな。
以前やっていた日舞も、最近習いなおしているのだそうだ。
師匠・桃太郎に芸人だからなんでもできたほうがいいよと言われたそうで。「師匠はなんにもできないんですけどね」。
師匠には、いいところに住めとも言われたので、田園調布に住んでいる。でも師匠は十条。
師匠には全然似ていない弟子だが、師匠愛が気持ちいい。
A太郎さんはしょっちゅう聴いているわけじゃないのだが、この不動坊、ずいぶん上手い。
面白さよりも上手さが目立つ、本格派の芸。
不動坊はギャグの入れどころが多い噺だが、A太郎さんのものは、ことごとくあっさりしているのが味。
細かい部分に注力するのではなく、トータルで、バカな男たちのバカな物語を楽しく描く。
そういえば、そういう持ち味の人だったなと思う。
日舞のおかげなのか、幽霊の形がいい。
春風亭一花「お菊の皿」
CDが直りましたので、と出囃子に乗って登場の一花さん。青い着物がよく似合う。
CDはA太郎アニさんを狙い撃ちしたようですねと。袖からA太郎さんの逆襲出囃子が掛かる。
不動坊を引いて、夏になるとよく怪談噺をやりますと。と言って「お菊の皿」に入っていく。
あれ、完全に幽霊噺でツいてるじゃないか。あえてやるんだ。
だが、予定のものだったのか。A太郎さんの担当か、袖から太鼓のハメものが入った。
連雀亭でハメものとは珍しい。
お菊の皿は、今年3席目。もっともっと聴いているような気がするが。
何度出ても、飽きることはない。楽しい噺。
それにしても、一花さん、上手い。
私が今まで聴いた経験を、軽く上回ってさらに上手い人。トリで力を発揮する人なのだ。
冒頭の、隠居が語る昔話がとても心地いい。
マクラで使っているかわいらしい地声よりも声のトーンを落とし、ダミ声を交えて語るのだが、不自然さは皆無。無理に作った声ではないのだろう。
一花さん、講談師に転向したらさらに上手いのではないかなんて思った。
別に、女性は落語より講談のほうが向いてるなんてひと昔前にありがちの価値観に基づく感想ではない。
笑いのないシーンでこれだけ楽しいのなら、立て板に水で講談やったら、もっとすばらしいのではと思ったのだ。
そして、想像通りお菊さんは可愛い。
ぴっかりさんあたりがやりそうな、地の自分を落語に映し出すようなやり方ではない。ちゃんといったん、女性らしさを新たに構築し直している。
きちんと作り直したお菊さんに、一花さんのかわいらしさが自然と現れる。
初期の怖いお菊、客が多くなって愛想のいいお菊、ぞろっぺえのお菊のすべてがかわいらしい。
お菊の皿もギャグ入れ放題の噺だが、そんなにオリジナルギャグはない。それでも、ずっと気持ちのよさが続く。
理屈っぽい落語ファンの私、気持ちのよさが分析できないとちょっと気持ち悪い。でも感性は正直だ。
ひとつだけ気づいたのは、噺に対して徹底的にひたり切らないところが上手いのだろう。非常にほどのいい、距離の保ち方。
数少ないオリジナルギャグは、お菊さんに噺家の春風亭一花から一斗樽が贈られているというもの。お菊さんの前に、前座として上がろうという魂胆らしい。
語り口がむやみに弾まないからここだけ浮き上がるようなこともなく、実にスムーズ。
感動して帰途についた。これだけ満足すると、3席、わずか1時間でも全然OK。
一花さん、もっともっと聴いていきたい人だ。
彼女の講談も聴きたい。そういうわけにもいかないだろうから、落語の地噺を聴いてみたいな。