校長先生のマクラ

マクラには大きく分けて、噺家さん自身のことを話す部分と、掛ける噺のフリになっている部分とがある。
前者はもちろん、後者も通常はカブらない。噺がつかないようにネタ帳で管理していれば、噺の付属品たるマクラがつくことはない。
ただ、マクラにはこれ以外の内容もなくはない。
噺を問わない定番マクラもあり、うっかりするとこれはカブることがある。

噺家が呼ばれた学校寄席にて。
校長先生が、開演前に生徒に話している。
「えー、今日は東京から落語家のセンセをお招きしました。センセがた一生懸命おしゃべりしますので、みんなまじめに聴ぐように。失礼になりますから、けして笑ったりしないように」

このマクラが寄席でカブったのを見たことがある。どちらの噺家さんも、人気の師匠だ。
さすがに二度目の客席はダレていた。
カブらないためには、噺家さんも事前に、
「なあ、今日校長先生出た?」
と前座さんに確認しておく以外にないだろう。

カブる心配はこのくらいにしておいて。
そもそもこのマクラ、あまり面白くない。
「学校というところは不条理がまかりとおるところである」
という聴き手の共通認識を前提にしているのかとも思うが、そういうメッセージなら噺家を呼んでくれる学校に対しては失礼だ。
あとは、「百川」などでおなじみ、田舎者を侮蔑する雰囲気も感じてしまう。
中途半端に失礼なくらいなら、いっそ極端に突き抜けてしまったほうがいい。
ちょっと変えてみました。

「今日は落語の師匠をお招きしました。
落語とはいいもので、校長先生は毎日聞いています。
落語を聴くと、立派な大人になれます。先生が校長になれたのは、落語を聴いてきたおかげです。
師匠がたはわかりやすい噺をしてくださいますので、初めて聴く人にも大爆笑間違いなしです。
落語もわからないような生徒は、ろくな社会人にはなれません。
先生は今から、君たちが落語を聴いて笑えるちゃんとした人かどうか、いちばん後ろでチェックします。
特に、停学明けの吉田に高橋、お前たちがちゃんと笑ってるかどうかは厳しくチェックします。
笑ってないようなら、卒業はさせません。
それでは師匠どうぞ」

作成者: でっち定吉

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