東京ボーイズ

寄席の色物さんシリーズ第二弾は、ぐっと渋い師匠方を。芸協の寄席にはそれほど出向いていないのだけど、色物さんはずいぶん充実している。噺家さんももっと充実するといいのだが・・・
子供の頃、ずいぶんと演芸番組でお目にかかった「東京ボーイズ」。
昨年は浅草で、師匠がたの高座を一度観ることができた。相も変わらず面白い。「謎かけ問答」は出なかったけど満足しました。
「懐かしさ」と、だがそれをはるかに上回る現役の芸人さんとしての面白さがないまぜになって感激した。
私の子供の頃は3人。リーダー逝去後は2人になったが、でも面白さが変わらない芸達者振り。
芸も変わっていない。同じネタで飽きさせないというのもすごい。落語だって、40年以上も同じネタを続けていれば、聴いて飽きてくるものだが。
寄席の空気、客の空気にぴったり合うからだろう。
寄席における、落語の合間にとても似つかわしい芸である。爆笑というのではなく、最初から最後までずっと楽しい。寄席において「楽しい」という感情は、「笑い」よりも優先されるものなのである。
TVで視ていた頃、師匠がただけを楽しみに待っていたわけではないが、しみじみ楽しくて何年も後を引く余韻を残す。ボーイズも他にたくさんテレビに出ていたが、結局のところ内容を覚えているのは東京ボーイズと横山ホットブラザーズだけだ。

内山田洋とクールファイブ「中の島ブルース」は大変いい曲だが、どうも、東京ボーイズのおかげで私はこの歌が好きなようである。
「中の島ブルース」を歌う横で茶々を入れ、「あ~ああ~、ここは札幌」とコーラスを入れてしまい、やむなく「中の島ブルースよ~」と歌わされる鉄板ネタ。トリオだから成立しそうな芸だが、コンビでこれをやってしまう強腕。
今になってしみじみと感心させられるのだが、歌の妨害をする嫌がらせネタなのに、「いじめ」感が皆無なのである。
「いじめ」というもの、十分笑いになる。今だって、相方をいじりまくるコンビ芸人、毒を吐きまくる芸人は無数にいる。
「いじめはよくない。そんな笑いはよくない」なんて言うのはさすがに野暮だ。笑いの手法のひとつだもの。
だが、そういう芸、高座から去ったあとの余韻は、必ずしも気持ちのいいものではない。寄席ではなおさら。
そういう空気を一掃した、軽い芸が東京ボーイズの真骨頂だと思う。

最近録画を再開した「浅草お茶の間寄席」に師匠がた出演していた。
じっくり視てみることにする。

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「天気がよければ晴れだろう、天気が悪けりゃ雨だろう」のおなじみテーマソングに乗って登場。
テーマソングの終わりは「ほ~がら~か~に~」だが、間違えて「さ~よお~な~ら~」と歌ってしまうというつかみギャグから。
しかし、この日はつかみにいきなり失敗したようで、ウケはいまひとつ。きっと客席の入りが薄かったのだろう。
その後も、スベリ受け狙いのボケが、本当に滑ってしまっている。
TVで視ている限り、決してつまらないことはないのだが。

しかし、落語も漫才も、毎日必ずウケるなんてものではない。
そこはベテラン、少々のことでは動じない。また、ウケないからといって、やみくもに客をいじったりはしない。
ウケないときの客いじりほど、この世においてムダなものはないと私は思う。うっかりすると噺家さんもやるけど。
ウケないことは罪ではない。ウケないことで、聴いているお客をいたたまれなくさせることが、演芸界における大罪。

ギャグがウケないからといって慌てず騒がず、じっくりじわじわ、歌と小ボケの連続で盛り上げていく「東京ボーイズ」。
粋な東京の芸である。
いい歌声で客席が徐々にあったまってきたところで、本日のとっておきのネタ「高崎は今日も雨だった」。
初めて聴くネタである。
「雨の歌といえば、『高崎は今日も雨だった』」だという軽いボケを引き延ばして、アドリブでその歌を本当に歌わせる。
「♪高崎は、高崎は、今日も雨だった。だるま抱えた、女が泣いてます」。
ここで静かだった客席、一気に盛り上がる。
本家「長崎は今日も雨だった」をマイナーコード化したムード歌謡になっている。さすが音楽家で、作りが上手い。

最後に、「長崎は今日も雨だった」を歌わせておいて、コーラスをかぶせ「ワワワワ」を移してしまう鉄板ギャグでおしまい。
終わってみれば、大変楽しい高座であった印象だけが残る。

昔の動画を視ると、東京ボーイズ師匠がた、「歌謡漫才」だと自己紹介しているのだが、現在のコンビ芸、よく見ると通常の漫才とは間がだいぶ違う。
通常の、相方と会話をキャッチボールする芸と異なる空気感。
どちらかというと漫談に近くて、常にお客とのコミュニケーションを間に入れて会話を成り立たせている。テンポはゆっくりしていて、決して先を急がない。
なるほど、お客として見ていても、参加している気になって、決して取り残されることはないのだ。
参加しているといっても、そこは気楽な立場。非常にリラックスした関わり合い。
それは、師匠がたが常にお客を巻き込む会話を心掛けているから。

落語の師匠がたも、参考にすべき部分が多々あると思う。
すばらしい芸です。

作成者: でっち定吉

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