亀戸梅屋敷寄席12(中・三遊亭楽生「片棒」)

亀戸梅屋敷寄席、冒頭に戻る。
前座は楽べえさん。
「手紙無筆」。前回と同じだと思ったのだが、過去記事を調べてみたらこの人からは「のめる」と「寿限無」しか聴いていなかった。
まあ、円楽党ではよく出る噺。前座からも。
楽べえさん、口調はまだまだ素人っぽいのだが、妙に間がいい。
無筆のマクラで「大工の山田喜三郎さん」を入れていた。喜三っぺが、「山田喜三郎?・・・あ、俺だ」で爆笑を呼ぶ。
この日来ている客は、こんな小噺ぐらい先刻知っているはず。でも絶妙の間があれば面白いのである。

二ツ目枠は、いつも明るい福耳の三遊亭兼太郎さん。急に暑いですねとあいさつ。
冷房の寒い暑いがあったらどうぞおっしゃってくださいと。
先日、高座の最中、絶妙のタイミングで女性客に「寒い」と言われた。空調なのか、私の高座のことなのかどちらですかと訊くと、「両方」。

ご隠居を八っつぁんが訪ねてくる。まんまおあがり。
二人の会話をたっぷり10分。道灌か、一目上がりか。
円楽党でよく掛かる「十徳」だともう少し展開がスピーディだしなと思っていると、ご隠居の道楽から「雑俳」へ。
この人は、基本スタンダードなのだが、我慢を重ねたうえで肝心なところを替えてくるという演出をする人。
八っつぁんが俳句知ってるのかと隠居に言われて返答するのが、「初雪やきゅうり転んでかっぱの屁」ではなかった。うろ覚えだが、「茶碗酒飲んでしまえば茶碗だけ」だったかな。
いつも楽しい高座なのに、その楽しさに比例して書くことは、いつもあまりない。
でも、そういう人はいる。今度真打に昇進する落語協会の柳家わさびさんとか。
それは、軽いということだ。軽くて悪いことはない。
どこでも切れる噺だが、横目で時計を確認してから落とす。

仲入り前は三遊亭楽生師。前座で出てきた楽べえさんの師匠。
と思っていたが、楽べえさん、今年大師匠円楽門下に移ったらしい。
楽生師は両国と掛け持ち。
この人もご無沙汰で2年振り。
かなり変わった落語をする人。わりとスタイルが近いのが、落語協会の林家しん平師。

夏は仕事が少なくなるので、ネタ探しに海外旅行をよくするそうで。
今回はマニラに行った。マニラは、他のアジアの都市とは比べ物にならない、警備が入念な街だそうで。銀行など平気でライフル持った警備員がいる。
そんなマニラで、オカマさんに財布を掏られたり、小さな兄弟に携帯を掏られたりする楽生師。
見事にネタが見つけられたようで。

楽しいマクラから、ケチの話題につなげる。後輩たちは、ケチな先輩のことを裏でぼろくそ言っているのだと。
あかにし屋、六日知らずを説明して片棒へ。

大変ユニークな片棒。動きが常に入っている。
片棒なんだから当然だと思うかもしれない。次男・銀のお祭りパフォーマンスでは誰だって動く。親父のからくり人形とか。
だが、そうした噺の肝の部分だけでなくて、絶えずよく動く人である。
しかも流れるように動く。よく知らないが、踊りをやっている師匠なのかと思う。動きがなめらかで綺麗なのだ。
かなり変わっているが、噺を壊してしまう芸風ではない。片棒という噺の隅々に迫り、どう活かすかという判断のために動きが入っている。

楽しい一席。
色物の少ない円楽党では、このような毛色の変わった落語が多少入っていると、バラエティ化に貢献する。

続きます。

 

片棒/芝浜

作成者: でっち定吉

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