若さまが時代劇のヒーローにあこがれ、新ヒーロー、さわやか侍として活躍しようとするドタバタを描く快作。
サゲは見事で楽しいが、ストーリー的には、それほど捻っている噺ではない。
だが落語というもの、部分部分のスケッチを詳細に描くことで、とても楽しくなる。そんな新作落語作りのいい見本と思う。
8時45分に視聴率が跳ね上がる、水戸黄門のマクラから。
子供の頃は、黄門の印籠の威力はすごいと思ったが、大人になって見てみると意外とそうでもないと小春團治師。
印籠の威力は30秒しかもたなくて、だいたい逆襲される。真のヒーローは、それから活躍する助さん格さんだと。
黄門様も、悪人どもをいつまでも泳がせておかないで、とっとと早く踏み込んだほうがいい。もたもたしているので死人が二三人増えるんだと。
若さま、泥田沼六が三太夫と相談している。
わしは長屋に住んで、町人たちと触れ合うのじゃと。まあ、本人も認める通り、ええカッコがしたいだけなのだ。
名前も水木源之丞とカッコよく改める。
その活躍っぷりをひとり妄想する若さま。まあ、ひとりキチガイ噺の「湯屋番」だと思えばいい。
あるいは、話し相手をほったらかして架空のストーリーを語る「質屋蔵」。当然呆れる三太夫。
所望する般若の面がなかったので、家宝のひょっとこを持参して、若さまは長屋に住まう。
それにしても、噺の舞台はいったいどこなのだ。
殿さま、つまり大名または旗本の跡継ぎが街に出ようとするのから、舞台は江戸でなければならない。
実際、悪役の勘定奉行が出てきたりするし。
しかし上方落語だから、登場人物がしばしば関西弁である。もちろんそうせざるを得ない。
そんな妙な設定だが、落語としては別段、違和感ないのが面白い。
古典落語だって小田原宿が舞台の「抜け雀」、宿の主人は上方ことばを喋る。そういうもの。
そして正義のヒーローである若さまは、もちろん江戸っ子言葉である。
上方落語は、古典でも新作でも、江戸っ子の言葉の面白さを徹底してフィーチャーしている。
長屋に住まう若さまが心配なので、あちこちで忍びのものが警護している。
若さまの道楽に付き合うのも大変だと、忍びはぼやくのなんの。
警護が大仕事なので、忍びたちは長屋のものを焚きつけて、若さまをお茶屋に連れ出してもらう。
これも、舞台がどこなのかわからないので、お茶屋に女郎買いに行くことになってしまっている。
遊びは上方だとお茶屋だし、江戸だと吉原など遊郭。でもまあ、そういう変で愉快な世界なのである。
お茶屋でもって、遠州屋に身請けをされる女を見つけ、これを救うさわやか侍。
遠州屋を成敗してしまうが、女には、せっかく身請けしてもらったのに余計なことをしくさって、このスカタンと叱られる。
まったくの想像だが、さらにこのくだりのあとに、省略された別のエピソードがあると見た。
そのほうがつながりがいい。もちろん、ラジオの時間制限のために刈り込んだっていいのだ。
奉行所の手入れに先んじて、勘定奉行の悪だくみに乱入し、ええカッコをしようとする若さま。
しかし、丹後屋に乗り込まねばならないのに間違って丹波屋に乗り込んでしまう。
本気で抵抗され、遊び人の金さんに助けてもらう。気を失う若さまだが、桜吹雪の彫り物は覚えている。
ラジオだが、小春團治師の演ずる遊び人金さんの所作を想像すると、実に楽しい。
そして随所に鳴り物がたっぷり入る。新作落語も、上方落語のルールでやると実に楽しい。
上手いサゲが見事な一席。あえてぼやかしていた背景も、腑に落ちる。
ああ、大阪に出向いて小春團治師が聴きたい。