竜楽師、前日は独演会だったと。
私がここ2年ほど、毎月行きたいと思いつついまだ果たせていない、内幸町ホールの独演会のことである。
でも段々と、こうして亀戸や両国で聴くのがいいなと思うようにもなってきているのだが。
独演会を終えて帰ってから一杯飲んでしまい、それでもって昨日と同じ着物なんですと。言わなきゃわからないことだけど。
帰ってから飲むのは、ノンアルコールビールがいいですねと。打ち上げででき上った後でということだろう。
ノンアルコールビールは、日本のものでなく、ちゃんと麦とホップだけでビールから作っているドイツのものが旨い。アルコール度数0.5%。
最近は、オーストラリアのノンアルコールビールも覚えた。これが0.9%ですごく旨い。
すごく旨かったのもので、この一杯が私の二日酔いを押してしまいましたとのこと。
私も愛飲している「ブローリープレミアムラガー」のことだと思う。これは本当に旨くて、私は昼からよく飲んでいます。
朝湯から帰ってきた熊さんが、手元不如意で酒が飲めないことを嘆いている。
ということで、猫の災難。
五感のすべてを刺激する、竜楽師の話術。
もう、口の中に冷酒の味と米の香りを感じました。酒が喉を滑り降り、香気が鼻に抜けるそのさままで。
三遊亭の芸は形から入るという。確かに竜楽師からは、いつも形の良さを味わう。
だけとそれだけじゃない。こんな飲みっぷりは、演者が心底その味を感じていないと表現できないと思う。
今まで聴いた高座の中で、もっともおいしそうなお酒であった。
熊さんは酒の味がわかる人なのだ。
あまり掛からないが、猫の災難は実に楽しい噺。演者の力量が相当必要だと思うけども。
よく考えたら、会話でなくてひとり語りが噺の大部分を占める落語ってあまりないですな。「一人酒盛」の場合は、目の前に相手がいるわけだし。
会話がない分、とても難しそうだ。
そして、噺の中の理屈が非常に理にかなっている演目。
まあ、猫の分際で鯛を食わしてもらっていて、さらに熊さんがそのお余りをもらうなんて不自然だなんて見解はある。
だけど、竜楽師で聴く分にはまったく気にならない。
熊さんは、猫が直接ほじくった鯛じゃないんだから立派なごちそうだと言っている。
最後まで、状況が自然なのだ。熊さんに企みはない。
鯛を買いにいったアニイの留守中に、五合の酒を全部飲んでしまう熊さん。
酒呑みで意地汚いけども、熊さんは決して、アニイを騙して酒を飲んでやれなんて気持ちは持っていない。
ちゃんと一合上戸のアニイのために残しておかなきゃとは思っているのである。
だけど、ひと口がふた口になるにつれ、酔いが進んで残った理性が失われてしまうのだ。
理性は失われても、とりつくろわなきゃという気持ちと、アニイに済まないという気持ちがわずかに残っている。
極めて落語の世界の人物らしいではないですか。
一合飲むごとに、ひとりしゃべりの言動が変わっていく熊さん。
戻ってきて、隣の猫のせいと聞いたアニイは最初は怒るが、熊の野郎の仕業だと知ってからは、呆れてはいるがそれほど怒っていない。
その優しさが好きだ。
大事件ではなく、日常のささやかな酒の失敗談というのも落語らしい。
圧巻の高座ではあったが、にもかかわらず、「どうだ」という芸は魅せない竜楽師。
最終的に残るものは、バランスの良さである。
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