鈴本演芸場4 その2(柳家喬太郎「花筏」下)

喬太郎師のマクラは続く。
聴いたことがある内容でも、やっぱり楽しい。この師匠の場合、マクラと本編とが並列の関係にある。
マクラは本編が始まるまでのつなぎではなく、本編はマクラの延長ではない。
落語協会で一時トライアスロンが流行る。そんなキツいことがしたくないから噺家になったのだと喬太郎師。
野球チームやサッカーチームはあるが、ある師匠が男女混合バレー部を作ろうとする。
現・立花家橘之助の三遊亭小圓歌姉さんのブルマ姿を見たいという不埒な目的。
五明楼玉の輔アニさんには困ったものですだって。
名前を出したのは初めて聴いた。まあ、この手のものはだいたい玉さまなのだ。

花筏は、登場人物が実質4人。
親方と提灯屋。親父と千鳥ヶ浜。病気の花筏は、偽物の提灯屋が出るだけで、本人は登場しない。でも、花筏って実にいい演題だ。
これらの登場人物、人物の背景はまったく描かれない。描く必要もない。
師に限らないが、古典落語の登場人物は記号。
古典落語の約束を守り、新作落語とはまったく違うアプローチで攻めてくる喬太郎師。
新作の場合は、必ずなんらかのキャラクター化を図るのに。
古典落語の記号キャラに、さらに肉付けするようなことはしないのである。かなり自覚的に、人物描写をしないのだと思う。
噺自体が楽しいのだから、それでいいのだ。
もっとも、親方の造型はなかなか貫禄があっていい。
そして提灯屋さんは、なんとなく甚兵衛さんっぽい。喬太郎師の使うフニャフニャ声がぴったり。
そして展開は非常にスピーディで無駄がない。千秋楽まであっという間。

最終日、予想外にも土俵に上がらされることになった提灯屋。
親方に注意される。まわしをつかまれたらいけない。つかまれたら死ぬ。と顔芸付きで。
そしてこれが、パラレルで親父と千鳥ヶ浜とのやり取りにも出てくる。
土俵に上がったら最後、お前は死ぬ、と親方とまったく同じ表情をしてみる親父。
この日顔付けされていた、柳家小ゑん師がやりそうなワザだなと。もちろん爆笑である。
そして、本職の相撲取りをなめるんじゃないと、親父が例を紐解く。
地方に行ったらさ、興行主に、地元で落語やってる人がいるので前座に上げさせてもらっていいですかと頼まれるのさ。ああいいですよって言ったらさ、これが上手えんだよ。間がよくてテンポもよくてさ。
なぜか砕けた口調でもって、そのまま喬太郎師になってしまう親父。
打ち上げでその素人が、「喬太郎さんの掛けていた噺、ぼくもやるんですよ。ぼくのとは演出が違うなあ」。
花筏にもぴったりの脱線。これ、実話なんだよなと。

喬太郎師のお遊びはさておき、提灯屋本人、間違ったら明日殺されるというのに、結構呑気だ。
打ち合わせが終わったら、早速酒飲んでいる。
軽いなあ。
でも、既存の噺をマンガっぽく変えてみたという感じでもない。花筏という噺の本質を丁寧にすくい出すとこうなるのではないだろうか。

そして千鳥ヶ浜の土俵入り。膝立ちして、大きなお腹をパンと叩いて気合を入れる喬太郎師。
楽しい脱線の数々で笑わせるが、噺の本筋はいじらない。実は大変本寸法の古典落語であったりもする。
サゲもまっとうだし。
会話のやりとりだけでちゃんと客は笑うのだ。

ちなみに、いつも咳の多さが気になる喬太郎師だが、今回は感じなかった。
本当に少なかったのか、引き込まれていて気にならなかったのかは定かでないが。
健康に留意し、70代まで楽しい落語をやっていただきたいと思ってやまない。
お爺さんになってまたスタイルが変わるのもいいじゃないですか。

冒頭に戻り、日常感溢れる鈴本演芸場の様子を続けます

 

作成者: でっち定吉

落語好きのライターです。 ご連絡の際は、ツイッターからメッセージをお願いいたします。 https://twitter.com/detchi_sada 落語関係の仕事もお受けします。