堀之内寄席3 その3(瀧川鯉八「長崎」上」)

上中下、3回で締める予定の堀之内寄席でしたが、4回にします。鯉八さんについて書くことが多過ぎて。

会場入りするとき、客は2階の長い廊下を歩く。楽屋の前を通る際、鯉八さんの大きな声が聞こえてきた。
立ち聴きしたくなった。さすがにしなかったが。
新作落語のニューフェイスが喜太郎さんなら、その前の世代の天才が瀧川鯉八さん。

三遊亭円丈師が登場したことにより、かつての芸協の新作落語は滅んでしまった。
その次に新作の大転換を歴史に刻めるとしたら、鯉八さんをおいて他にはあるまい。円丈師は滅びないと思うけど。
円丈師以降も、楽しい新作を掛ける人は数多いが、まったく新しいスタイルをひとりで築き上げた点において、鯉八さんの右に出る者はない。
とかいいながら、私もそんなに聴いてるわけじゃないんですけどね。これからたくさん聴いていきますよ。

「ちゃお」と挨拶から。
演者の地を高座に一切持ち込まないのが、この人ならではのスタイル。高座に見えるすべてはフィクション。
それは誰だってそうだ。だが、現代の噺家はマクラに虚々実々の不確からしさを求める。客が本気にしてしまう嘘をつくわけである。
これを本編に拡大したのが中沢家の先代圓歌。
だが、鯉八さんのマクラについては、すべてを本気にしてしまう人は少ないのではないか。
すべてがウソモードで語られるからだ。逆に、真実をその中に多数放り込むことで、話のリアリティを担保するというやり方。
この、高座に地を持ち込まないスタイルについては、むしろひと昔前の噺家に近いかもしれない。

以前からこの会には出させていただいているが、真打昇進が決まったので今回が最後になりますと。大きな拍手をもらう。
そして、せっかくですから、皆さんに一緒になって「師匠」と呼ばせてあげます。なんだそりゃ。
こぶしを上げて、「ありがとう、鯉八師匠」と声を揃えてくださいと。噺家になってくれてありがとう。生まれてきてありがとうの意味ですだって。
声が小さくても、もう一度やれとか言いませんからと客に命じるが、結局声が小さかったのでもう一度。やりたい放題。

鹿児島の実家と、祖父母の話。桜島に住む母方のばあちゃんが作ってくれる郷土料理である「ガネ」の天ぷらの話。
豊富にあるさつまいもと、人参ごぼうなどの野菜を一緒に揚げたもの。
中学性の頃なので、ばばあの料理なんか意地でも旨いと言いたくないが、これは旨かった。
懐かしいので実家にレシピを訊くが、どうしもあの味にならない。だが、まちがって化学調味料を多く入れ過ぎたときに、懐かしい味に近づいた。

桜島の先、鹿屋に住んでいた父方の祖父は100歳で大往生したが、名うてのプレイボーイだったのだと。
村の女のすべては、祖父の彼女だった。
彼女らの多くは嫁いでいったが、祖父のことが忘れられず独身を通した女性が5人いて、その5人、祖父の墓に一緒に入っているという衝撃の事実を知る鯉八さん。
語り手が語り手だから、衝撃を受けた感じはないが、事実すごい話。
そして90代で存命の祖母が、すべてをわきまえつつ毎日墓の掃除をしている。

プレイボーイは隔世遺伝する!と宣言して本編へ。
墓のマクラがちゃんとフリになっている。
亡夫のお墓の前で、ひとり思い出話を語るお婆さん。
若い頃、一緒に長崎旅行に行ったこと。
女は初めての長崎だが、男は元の彼女と一緒に行ったことがある。そんな街に行きたくないと言っているのに、いい街だからと押し切られる。

後で調べたらシンプルな演題で「長崎」というらしい。
しかもこの噺、長崎でもやったそうだ。地元のランドマークや有名店が次々出てくるので、長崎市民は大喜びだったそうである。
だが、そんな客の前でなくても、全然問題ない楽しい噺。旅をしている気分にもなる。

続きます。

 

作成者: でっち定吉

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