今春、4代目圓歌を襲名した歌之介師。
相変わらずご活躍のようである。
地方の仕事が多い人だが、毎月「上席」だけは寄席に出るため空けているそうな。師匠の教えである。
先代と同様、当代圓歌師も漫談芸の大家。
たまにNHK「日本の話芸」にも出演している。
もっとも日本の話芸では、先代の「中沢家の人々」ぐらいの完成度がないと、漫談では出られない。
当代も「母のアンカ」以外では、落語で出演する。
最近のオンエアは「やかん」。
爆笑のこの一席を。
日本の話芸を収録している東京落語会、本来そんなに笑い声が上がるような会ではない。落語研究会と同様。
どちらも行ったことはないけど、きっとそうでしょう。
だが、この収録に限っては笑い声が一段と大きかった。
落語で笑わない高齢者たちの、笑いスイッチを発動させる当代圓歌師。
前半はいつもの漫談だが、後半のやかん本編がさらに素晴らしい。もっとも、明確に区別できるものかというと?
さて圓歌師、ここに来て喋りのテンポが変わってきたようだ。ゆっくりめである。
襲名がきっかけになったのだろうか。
喋りのテンポとリズムは人それぞれ。スピード自体に良し悪しはない。せわしい喋りが似合う人だっている。
安定した話芸を誇った先代は、途中でテンポが変わったということはなかったように思う。
当代だって十分安定しているのに、すごいな。さらなる話芸の完成を求めて、ゆっくりとしたテンポにシフトしたのだ。
といって、テンポが著しく変わっているわけではない。我ながらよく気づいたものだ。
少し前のVTRを聴いていると、畳みかけるスピードと、タメを作る部分とにメリハリがある。
だが、スピード部分は削られ、タメが増えている。つまり緩急によるメリハリは、実のところ犠牲になっていても不思議はない。
実際には、タメによって、喋りが力強くなっている。
まるで元阪急のサウスポー、星野伸之のピッチングのようだ。遅い速球とスローカーブを投げ分けるような。
しかし、これがまるで打てないのだ。遅い中での緩急があるから。
前半10分は、師匠の思い出。
実際の高座では、もっとマクラ長かったようだ。VTRをよく観察すると、カットされた箇所がわかる。
まあ、ネタの順序は脈絡ないから、カットはしやすいだろう。
師匠存命中はやらなかった「壁ドン」ネタが入っている。
師匠と飲んでいる歌之介師。師匠はビールだけ。歌之介師がタイミングを見計らって声を掛ける。
トイレに行って師匠が壁ドンして、弟子がナニを引っ張り出して小用をさせるという。
当時そうやって師匠の世話を焼きながら、将来このネタを喋ろうと考えていたに違いない歌之介師のことを考えると、また別の笑いが生じる。
そんなネタから、師匠への溢れる敬意が伝わってくるところがすごい。
その前には、スイスに送らないと修理できない、形見の金時計の話も。
師匠のアウディのエピソードから「ぎっちょハンドル」を抜いていたのはNHKだかららしい。
「ぎっちょ」がきっとまずいのだ。そしてアウディもまずい。
でも、冒頭の「落語界のピグミー族」はいいのかな。ピグミー族を傷つけているわけではないからいいのか。
本編に入ってからの「二丁目のおかまさんの食事は」「釜めしじゃ」というギャグはいいんだろうか。
私は言葉狩りに与する気は一切ないが、時代の変化とともに、TPOにふさわしくない言葉があると、一応気にはなるのである。
だがいっぽうで攻める圓歌師。
本編に入って、「キリンは夜行性。アサヒを嫌う」なんてネタを入れ、客の爆笑を聴きつつ「放送的にはスレスレかもしれん」。
実際にはNHK、コント番組などではずいぶん前から、企業名の入ったネタなどじゃんじゃん流している。最近は、営利目的でなければいいらしい。