亀戸梅屋敷寄席15(上・三遊亭鳳月「金明竹」)

しゅりけん/手紙無筆
鳳月  / 金明竹
良楽  / 頑張れ!朝乃山
(仲入り)
朝橘  / 粗忽の使者
竜楽  / ふぐ鍋

火曜日は午前中に外出予定があって、ついでに落語に行くことは決めていた。
用事が済んだら帰ったっていいのだが。仕事もキリがついたのでいいでしょう。
国立演芸場の柳亭小痴楽昇進披露も気になった。広小路亭の披露目には行けなかったし。
若干の空席があるのは確認済み。
だが、家を出るときに「東京かわら版」を持って出るのを忘れた。200円の割引が受けられないので、国立行きは消滅。
でもいい。早くからスケジュールに入れておいた、亀戸梅屋敷寄席に出かけることにする。
トリは三遊亭竜楽師。今年8席目。実によく聴いてるな。

開演ギリギリに到着。客は30人弱というところか。
前座はしゅりけんさん。
またしても手紙無筆である。円楽党の前座はずいぶんこの噺を掛ける印象がある。
さすがにちょっと飽きた。でもしゅりけんさん上手い。
「司」の字を魚屋に訊くマクラが入っていた。「同」をおろした骨付きのほう。
テメエも無筆の癖に、字が読めるふりをするアニイの造型がほどよいのがいい。
まったくうろたえないのである。

三遊亭鳳月さんも、目当ての二ツ目。もうキャリア5年になりましたと。
与太郎が出てきて、金明竹。
前座噺だが、円楽党ではあまり聴かない噺。
過去の記事を調べてみたら、わずかに鳳月さんの兄弟子、楽松師で聴いたことがあるだけ。
「手紙無筆」「新聞記事」「十徳」「つる」などはやたら掛かるのに、金明竹は掛からない円楽党。
まあ、それも団体ごとの個性である。
与太郎は、上方男の言い立てを一度だけ聞いておばさんを呼ぶので、一般的なものより言い立てが一回少ない。

この与太郎、どうやらおかみさんのほうの親戚みたい。語らないけど、旦那のほうはいやいや預かってるみたい。
それはいいけど、この旦那が与太郎に厳しい。与太郎がまったくめげてないのは救いだが。
落語の演出に対するいい悪いではなく、あくまで私の個人的な好き嫌いの話である点は断っておく。
与太郎(柳家では松公になる)を叱りすぎるおじさん、私は大嫌いなのだ。
私は丁稚定吉を名乗っているけど、本当は一番好きな落語のキャラが与太郎なのである。
与太郎こそ東京落語のヒーロー。ヒーローを叱りすぎないで欲しい。
だから人間国宝、小三治師の金明竹も嫌い。弟子を叱る師匠の了見が見えて。
私の好きな金明竹は、例外なく与太郎への視線がとても優しい。

  • 柳家小せん
  • 三遊亭遊馬
  • 柳家三三

など。遊馬師のおじさんなんて、呆れるだけで、ほぼ怒らない。
三三師など、小三治師の弟子だが。

ちなみに鳳月さんの言い立てに、フライング気味に中手が入っていた。
フライングはよくないと思うが、そもそも金明竹で中手が入ること自体に、私は強い違和感を覚える。
大工調べや、がまの油じゃないのだ。
金明竹の中において上方男は、別に「見事な言い立てを披露しよう」と思っているわけではない。与太郎が理解してくれないので、やむなく繰り返すのである。
中手が飛ぶのは、鳳月さん自身の「どうだ」が客に伝わるからではないかな。
後半、恐ろしく早口で言い立てを述べる演出はごく普通だけど、その部分に演者の「どうだ」が入ってしまっている気がする。
というわけで、好きな鳳月さんの、好きになれない金明竹であった。
こんな日もある。

続きます。

 

作成者: でっち定吉

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