亀戸梅屋敷寄席15(中・三遊亭朝橘「粗忽の使者」)

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仲入り前の三遊亭良楽師は、高速バスで富山から出てきて先ほど池袋に着きましたとのこと。
スベリウケ狙いのギャグを二三放つ。
冒頭からなんだかなという感じだったので、寝ることにした。ちょっとお昼にビール飲んでたのもあって。
先日、両国で聴いた、たぶん釈ネタの「太刀山の恩返し」はなかなかのものだったけど。
この日は同郷の力士、朝乃山に関する漫談だったらしい。
ちょっとセリフ回しが変だった気がする。
それほどよく知らない師匠なのだが、体調が悪いんじゃないでしょうか?
そして、(寝てた奴がいうのもなんだが)早く降り過ぎたみたい。早めに仲入りになって、最後結局、竜楽師の持ち時間がやたら残っていた。
仲入り休憩時も引き続き寝ていたのだが、前座さん(見習いか)に、「良楽師匠の独演会です」と起こされてチラシ渡された。寝かしといてくれい。

やや、前半が消化不良気味の日。ここからちゃんと取り返した。
仲入り後は、期待の三遊亭朝橘師から。
客のマナーについてのマクラ。
昨日も両国で喋っていたが、落語初めてだという人もいたと。
落語のマナーというのはうるさいんじゃないか、心配な人もいると思うが、気にしなくていい。
寄席ではなにしてたっていいのだ。寝たって携帯鳴らしたって、ただ、途中で帰らなければいいだって。
そしてこの内容を、言い立てのようにスラスラ喋る朝橘師。すごいぜ。
オリジナル言い立てだ。

本編は粗忽の使者。
これがまた、すばらしい一席。
既存のものと比べ、大きな工夫があるわけではない。だが、すべての部分がスキなくでき上っていて見事。
工夫はいずれも細かい部分。
留っこは、粗忽のさむらい地武太治部右衛門の尻につまむところがないので、「えんま」でもって尻の間の柔らかい部分をつねる。
そのときに、「我慢するなよ。じぶたじぶこになっちまうぜ」だって。
だが、そうしたクスグリの工夫よりも、全体を通して流れるような口調が見事な一席。
そして、隅々まで画がよく見えるのである。覗いている留っ子の語りだが、カミシモ付けた二人のさむらいが、しゃっちょこばって挨拶をしている姿が目に浮かぶ。
これぞ古典落語という一席。
実に引出しの多い人である。
兄弟子、萬橘師みたいに売れてくる人だと私は思っている。

トリの三遊亭竜楽師、時間が40分ほど残っている。落語協会の寄席のトリでもこんなに残らない。
この長い時間、これはこれで楽しみだ。
海外公演の多い師匠だけに、マクラは海外の風習から。
「つまらないものですが」と土産を渡す日本の風習がいかに珍しく、海外で評判が悪いか。
中国に行ってお土産交換をすると、とても大きく、重いものをもらうのだが、中身はそれほど入っていない。
外側だけ大きく重いものを渡すのが、彼らの見栄であり配慮である。
だが台湾に行くと違う。日本に占領されたからだろう。台湾では、小さく重いものを、小さく包む。

なんだか知らないが、竜楽師の教養溢れるマクラにひとり手を叩く爺さんがいる。
マナーがどうという以前に、拍手の意味がわからん。いったいなにに対して手を叩いてるの? 日本の台湾統治に?
そしてこの爺さん、マクラの最中に席を立って便所に行き、また戻ってくる。
竜楽師は、こういうのはスルーする。

続きます。

 

作成者: でっち定吉

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