亀戸梅屋敷寄席15(下・三遊亭竜楽「ふぐ鍋」)

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さて、マクラの楽しい師匠、落語界にたくさんいる。
多くの師匠は、マクラを徹底的に作り込んでくる。
竜楽師のマクラはそういった方法論とはひと味違う。特にオチなどつかなくても楽しい。
この日も、カルチャースクールみたいな文化比較論になってしまい、「今日は落語ですよね」とご本人自ら突っ込んでいたくらい。
師のマクラは、ひたすら教養を打ち出していく。この方法論は唯一無二かもしれない。
こういった手法で失敗するとしたら、簡単な気がする。客に対して上から「こうなんですよ」という目線で入れば。
だが絶対にそういう隘路には陥らない竜楽師。ただのインテリ文化人には不可能なワザ。
インテリ文化人どころか、インテリですらないのに人に上から入る、狂った噺家も世にはいる。
竜楽師の比較文化論的マクラ、決して知識の押しつけではなく、客ひとりひとりの感性に共鳴する。そこが上手い。

日本でも、海外に近い感性を持っていて、外国人に評判のいい街がある、と言って大阪の話。
大阪好きの竜楽師の、上方落語界に関するマクラはとても面白い。
人情噺の見事な竜楽師が、爆笑の街大阪にすんなりつながるというのも、また面白い。
大阪の落語会に出してもらい、前日にいた京都の悪口から入って客にウケる話。
みなさんひとりひとりと握手しているような感じですと語ると、前のおばちゃんが立ち上がり、師に向かって「握手して」。
大阪でしかあり得ない光景だと。

この日の竜楽師、黒い着物の上に、ベージュの(野暮な表現ですみません)羽織を着ている。これは大阪スタイルなのだと。
東京では伝統的に、黒紋付になるところ。
大阪の噺家は派手好きで、笑点みたいな色紋付で勢揃いしている。
竜楽師が大阪に行くと、黒紋付が結果的に一番目立つんだと。
大阪の影響を東京落語界もかなり受けていると。ハメものとか、出囃子とか。昔は東京は太鼓だけで上がっていたものだと。

大阪のマクラは、「ふぐ鍋」のフリなのであった。
竜楽師のふぐ鍋の舞台が大阪だというわけではないけれど、「てっちり」の本場といえばやはり大阪だということだろう。
爆笑のふぐ鍋は二度目。調べたら今年の2月に聴いている。その際は仲入り後のクイツキの出番だったが、トリネタにもなるらしい。
一度聴いた噺だが、ここまで竜楽師をたびたび聴いていると、もはや被るのが当たり前。まったく気にはならぬ。

それにしても楽しい噺。
生き死にを巡る攻防こそ、明るく楽しく描かないとならない。
毒見をさせているのに、まだ不安で仕方ない主人と客。ようやっと箸を口まで持っていくが、箸が離せない。
そしてふぐが、実に旨そう。
そもそも、酒と塩辛からしてすでに旨そう。

竜楽師のふぐ鍋は、登場人物の構成をちょっとだけ変えている。
一般的には、毒見をさせられるのはおこもさん(乞食)であるが、これを没落した怠け者の二代目に設定している。
なるほど、そのほうが聴いている側も、あいつなら食わせてやってもいいと思う。

最近よく聴いているふぐ鍋だが、だからといってメジャーな噺でもない。
洒落たサゲで客が湧いていた。

この日も満足の亀戸梅屋敷寄席でありました。

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作成者: でっち定吉

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