神田連雀亭ワンコイン寄席1

先日初めて訪れた「神田連雀亭」を再訪した。今回は用事と仕事絡み。
今日もワンコイン寄席。時間は午前11時半から1時間。
客は前回ほどはおらず、つ離れする程度。
早めの昼休みを取っているサラリーマンは、今日は見なかった。
東京かわら版には「志ん八/A太郎/扇」と3人の名前が出ていたのだが、お目当てにしていたA太郎さんは休演。
Webには代演情報出ていたのだが、見ていなかった。
さらに、扇さん(木久扇師匠のところの女流)も休んで、今日は志ん八さんと遊里さんと2人で30分ずつ。
二ツ目なのに、番組決まってから抜いてしまうんだなあ。A太郎は桃之介師の、扇はひろ木師の、それぞれ兄弟子の真打襲名の手伝いが忙しいらしい。
A太郎は早めに代演頼んでいたそうだが、扇はただ抜いてしまったようだ。
まあ、事情がよくわからないから勝手な批判もしづらいのだけど、志ん八さんはマクラでそんな話をしながら扇に対しては不服そうであった。

古今亭志ん八「唖の釣り」

いきなりがっかりしたのだが、でも今日の内容悪くはなかった。
古今亭志ん八さんも、柳亭こみちさんと同じく秋に真打昇進である。
マクラで「普通の人は働いている時間なのにどうしてこれだけ集まるのでしょうか」と語る。
余計なお世話だよ・・・
たまにこういうこと言う芸人さんがいる。言うのは別にいいのだけど、ちゃんと笑いにつなげて欲しい。
亡くなった喜多八師匠みたいに、「寄席はいいですよ。友達がいないんだなって方が集まって」とキツいことを言ってもいいが、笑いを取って欲しいもんだ。

さて、釣りのマクラから「唖の釣り」に入る。珍しい噺だ。
「唖」って、初めて知ったけど「おし」で変換できないんですね。「支那」や「気狂い」もそうだが。
珍しい噺なのだが、にもかかわらず、世界観が落語のまん真ん中にあると思う。だから、久しぶりに聴いてもまるで違和感がない。
「珍しさ」で勝負するような種類の噺でもない。
珍しい噺が珍しい理由にはいろいろあるわけだが、この噺に関しては、世間に変な気を遣っているという以外にはなさそうだ。
ここで差別や言葉刈りについて論じる気はないが、落語としてはちょっともったいないなとは思う。

ともかく、志ん八さんの「唖の釣り」、実に楽しいものだった。
唖になった七兵衛さんのリアクションが絶品なのは、今は亡き師匠、志ん五譲りなのか。
聾唖者というより、ほとんど動物。立派なエテ公である。
人柄なのか、寺侍も厳しい造型ではなく、気持ちのよさの漂う逸品でありました。
志ん八さん、秋の真打昇進で「志ん五」を襲名するんですね。やはりなにか似ているんでしょうか。

三遊亭遊里「花色木綿」

交代して三遊亭遊里さん。明るく元気な高座で好印象。
かなりのオーバーアクションも、若々しくてよく似合う。
小遊三師匠の弟子にも、なかなかいい噺家さんがいるんだなあ。
BSトゥエルビの「ミッドナイト寄席」が、「ミッドナイト寄席ゴールデン」に昇格し、二ツ目さんの落語もメディアに乗るようになった。でも、そこからこぼれている人がまだまだいるものである。まあ、いまいちの人もずいぶん出てますけどね。
二ツ目さんにもいろんな人がいるが、落ち着いて高座を務める人がいいとは限らない。落ち着きを求めるなら、やはりベテランのほうがいい。そうなると真打。
落語を知らない人は、「真打」という称号を得ている人は、落語がみな上手いと思い込んでいるのだが、年功序列で誰でも真打になれる以上、もちろんそうではない。
でも、寄席で真打だけ立て続けに聴くのと、神田連雀亭や早朝寄席、深夜寄席みたいな席で二ツ目だけ続けて聴くのとでは、やはり落語の雰囲気が相当異なるのも事実。
差は間違いなくある。でも、二ツ目ならではの落語を聴かせてくれるなら、私にはありがたい。
今日の遊里さんみたいなぴちぴちした芸は、真打からは聴けないものだ。だからこういう若々しさは大変貴重である。
小遊三師も、若手のころはこんな感じの人だったのではないでしょうか。
遊里さんは、真打昇進はまだまだ先だ。

ネタは「花色木綿」。小遊三師譲りの泥棒噺である。
途中までだと「出来心」。「花色木綿」のタイトルとなる最後までやると、わりと長い噺である。
寄席のトリネタでもないし、ホール落語で掛ける感じでもないが、こうした席で30分やるにはぴったりのネタである。
遊里さんの人物造型、泥棒と八五郎とがそれぞれ能天気なのがいい。世の中ついでに生きてる感じがすばらしいですね。

サゲまではなかなか聴かない噺。
八っつぁんが「ほんの出来心で」で落とすのかと思ったら、まだちょっと先まで進んで泥棒が「裏が花色木綿」でサゲ。
時間が余り不足気味だったので、遊里さん頑張って伸ばしたようなのだが、それでも3分くらい不足だった。
まあ、時間が長ければ満足するというもんじゃないので、問題なし。

ちなみに、ふんどしだけ盗んだこの泥棒が「窃盗罪」の既遂なのは疑いないところである。
そして、泥棒にみんな盗まれたことにして店賃の支払を逃れようとする八っつぁんも、犯罪成立である。
人を欺罔して、財産上不法の利益を得ようとしたので、詐欺未遂。
大家を騙して、一時的にとはいえ、店賃を待ってもらおうとしたのは犯罪だ。
それがどうした。ただ書きたかっただけです。

作成者: でっち定吉

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