荏原中延・チャリティー寄席 その4(三遊亭兼好「親子酒」上)

仲入り後はコント。
コント青年団は、日ごろは芸協の寄席に出ているコンビだ。
落語協会にはコント芸人はいないのに、芸協には「チャーリーカンパニー」「コントD51」など、なぜか多い。
この日は医者・財前五郎と葬儀屋。葬儀屋が、大学病院に営業に来るネタ。
医者は客を患者に見立てて語り掛け、「鈴木さん、前立腺の具合はどうですか」。
やりたい放題。だが寄席で鍛えた芸は、客を怒らせたりすることはせずに、ギリギリまで攻める。
「俺はちゃんと品川区に税金納めたいんだ」なんてアドリブも。

葬儀屋役の青木さんがなぜか、「最近ではイオンも葬儀に手を出している。商売あがったりだ。立憲民主党の岡田はイオンの身内だ。ばかやろー」とキレる。
笑ってしまった。
演芸全般、すべて左翼的立場から政権批判をすべきと信じ込んでいる人はなぜか世に多く、辟易することがある。
笑いの世界に、偏った思想を持ち込まないで欲しいものである。
「演芸は権力に寄り添うべき」なんて言われたらイヤだろう。レベル的にはそんなのと同程度だ。
そりゃ確かに、政権批判するとなると現在はおおむね左からの主張に近くなるのは当然。
でも、別にそんな役割なんて演芸に与えられているわけじゃない。何を批判したって別にいいのだ。
だからといって、「コント青年団は政権寄りだ」などと思うのは勝手な思い込みである。
よく聴くとちゃんとアベノミクス批判も入っている。気が付かなきゃ付かないで全然いいけども。
結局、面白けりゃなんだっていいのだ。イオンにキレる意味はまるでわからないけど。
なぜか立民批判をする青木さんに服部さんが、「お前、攻めるな」。

腹の出た医者、服部さんが、世の中の矛盾についてとうとうと語るシーンが入っている。
どんなネタのときも。これ自体がギャグである。
医者でなくなってしまっている服部さん、「私は毎月国民年金支払ってるんです。いったいどうなるんですか」。
これに答えてお約束の、「ここにいる人たちはみんな年金もらってるんだよ。勝ち逃げ世代なんだよ」。

時間たっぷりのコントだった。
コントでもって、残り時間を堂々と時計で確認しながら、オチを作って落とすさまは初めて観た。
漫才と一緒だ。まあ、もともと漫才っぽい芸だけど。
さすが寄席演芸は自由自在。
「らんまんラジオ寄席」に呼ばれても問題ないコントだろう。

トリは三遊亭兼好師。
萬橘師のマクラに触れていたので、ずっと袖で聴いていたらしい。
萬橘師と同様、「親子酒」という演目も、初心者に近い客を見て出したものだろう。
わかりやすい噺。まあ、人気演目だし、特にこの時季にはいい。
しかし、マクラでは酒の気配も感じなかった。酒ネタと決めてはおらず、客の反応を見ていたのだと思う。

わりと空いている客席をいじる。ちょっと大きめの荷物もおける、このぐらいがいいんですよと。
しかし、世にたくさんいる兼好ファンは荏原中延の地まで来なかったのだろうか。
この師匠の大好きな皇室ネタ。危ない部分は特になかったけど。
アウェイかもしれないと警戒しているのか。まあ、それも大事なこと。客に合わせられない噺家はダメだもの。
上皇后美智子さまについて、あれだけ小さくて役に立たない帽子が似合う人はいないと言ってたくらい。

皇室ネタの最後に、天皇陛下はお酒が強いそうです。そりゃそうですね、海外からのお客様をもてなす必要がありますしと。
そんな話は聞いたことないけど、わりと強引に酒につながる。
お酒のネタは、下戸の噺家のほうが得意にしている。それはやっぱり、打ち上げでよく観察しているからと。
兼好師も下戸だそうな。そういえば萬橘師も下戸だと、いつぞやのマクラで言っていた。

続きます。

 

作成者: でっち定吉

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