12月の1週目、マジメに仕事はしていたが、少しは出かけたい。
金曜から日曜に掛けて、東京かわら版と首っ引きで、実に多くの会を検討した。
ただし、少しでも安くという縛り付き。
たけ平、萬橘の両師がやっている「にっぽり館」などぜひ一度行きたいのだけど、1時間半で2,500円はちょっと高いな。
悩みぬいて土曜日、赤羽岩淵の「大満寺」でやっている、「お寺de落語in赤羽」に行くことにして、前日に予約を入れる。
1,500円だからまあまあだ。もっとも、黒門亭や亀戸梅屋敷寄席は2時間で千円だけど。
柳家花いちさんと、古今亭志ん松さんの二人会。落語協会の二ツ目。
花いちさんは、そんなに数を聴けているわけではないが私は大ファン。
二ツ目の中でも仕事はかなり多い人なのだが、東京西部・北部を巡回していて、うちの近所には来ない。
志ん松さんは、一度も聴いたことがない。
花いちさん目当てなので、日曜の、中野の独演会と悩む。
独演会はゲストが橘家圓太郎師。それで予約2,000円ならありがたい。
悩んで結局安いほうに行く。
行くほうが1時間半、行かないほうが2時間で、よく考えたら時間単価は同じだが。
赤羽駅の改札を抜けて外に出るのは初めてだ。駅構内のエキュートにはたまに寄るのだけど。
めちゃくちゃ寒い中をしばし歩く。大満寺は、南北線・埼玉高速の赤羽岩淵駅の真上。
始めて来るエリアなのだがこの付近、佐々木譲の小説「沈黙法廷」に、殺人事件の舞台として出てくる。捜査の描写がリアルなので、Google Mapを開きながら読んだのだ。なんとなく親しみを感じる。
佐々木譲の小説は、道警シリーズや傑作「犬の掟」もそうなのだが、地図を見ながらつい読んでしまう。
お寺はひっそりとしている。落語なんかあるのかという風情だが、境内を奥に進むと案内がある。
予約していたのは、私を含めて3人だけでした。
お寺の落語会だから、座敷だと思っていたが椅子席。
お客は、ぎりぎりつ離れしない人数。まあ、こんなのもいいやな。
まだ3年目の会のようで、いろいろ手探りなんだろう。
メクリにはすでに「古今亭志ん松」と出ている。
A4の用紙にプリンタで寄席文字を2文字ずつ出力し、3枚セロテープでつなげてある。
「古今」「亭志」「ん松」。手作り感満載。
テーブルの上に座布団がむき出しで置かれている。
これは、志ん松さんがバラしていたが、花いちさんが緋毛氈を持ってくるのを忘れたためなんだそうだ。
3台並べたテーブルが高座。隅に踏み台としての椅子がある。演者はここを抜けてくるのであった。
5分遅れて開演。
「もう時間だから」という裏方さんの声など聴こえていた。
碁どろ | 志ん松 |
試し酒 | 花いち |
心眼 | 志ん松 |
初めて聴く志ん松さんから。いい男。
仮設の舞台をギシギシ言わせながら登場。
この会は2か月置きにやっているそうだが、前回10月は台風で中止になったので、間が空いたとのこと。
2人で3席という会であり、今回は私が2席務めますとのこと。
一緒に会をやっている花いちアニさんの話。
花いちさん、会話のキャッチボールができない人なので、しばしばイラっとさせられるそうで。
大満寺さんにお世話になっているから、お歳暮持っていこうと花いちさんと相談するが、その後の連絡がつかない。
志ん松さんは、この土曜日は池袋で出番があったので時間がない。できれば花いちさんに用意して欲しい。
ようやく会の当日に連絡がつながったが、第一声が「緋毛氈忘れちゃった、どうしよう」。
結局、寄席の出番を終えて慌ただしく志ん松さんがお歳暮用意したそうである。東武百貨店でしょうかね。
入船亭遊京さんを交え、3人で忘年会をする予定だそうだ。そういえば遊京さんのマクラでも、花いちさんの話が出ていたっけ。
花いちさんの話をしようとだけ思って出てきて、なにをするのか決めてないんだそうな。
碁将棋のマクラに入る。
珍しい、碁どろである。
碁泥と書いてもいいのだけど、「碁どろ」「穴どろ」って好きな表記なのだ。でも「夏どろ」とは決して書かなくて、我ながら適当。
好きな噺だが、めったに聴かない。
笠碁は碁を知らなくてもできると思うのだが、碁どろは知らないとやりづらいんじゃないかと思っている。
志ん松さん、仕草を見ると碁を知っていそうだ。石を持つ手つきが実にいい。
風格も必要な噺だが、若い志ん松さんには隠居は描けない。
だが、決して不自然な隠居じゃない。隠居ふたりの風格ではなくて、子供じみた振る舞いにスポットを当てて話すから。
年寄りの子供じみたありさまなら、若い人が描いてもいいのだ。
碁好きの泥棒が出てくるが、結末とサゲを変えていた。
「泥棒さん、よく来たね」は、だからない。
面白かったのだが、結末を変えた意味まではよくわからない。変えてみたかったんだろう。