女芸人THE W準優勝「はなしょー」のネタに新作落語を見た

相変わらず落語ばかり聴いている私だが、テレビのネタ番組も嫌いではない。
「女芸人THE W」をたまたま視始めて、最後まで見ていた。
阿佐ヶ谷姉妹が優勝した昨年は視てないのだが、番組全体への酷評をちょっとネットで読んだ。
結構面白いではないですか。昨年より急激にレベルが上がったなんてことはないだろう。
女芸人への偏見により、酷評も寄せられるのではないだろうか。
漫才・コントも落語も、偏見は少ないほうが楽しめることは間違いない。

さて、優勝した「3時のヒロイン」よりも個人的にツボにはまったのが、準優勝の「はなしょー」。
特に一本目、嫁姑のネタが。

ネタを観ながら、これは非常によくできた新作落語の要素を全部持っているなと思った。
彼女たちのことはまったく知らなかったけど、落語好きなんじゃないだろうか。
まずコントのオチの付け方が、非常に落語のサゲっぽい。
別にどんでん返しではなくオチのためのオチであり、非常に軽いが、本編との関連の程度が、非常にサゲっぽい。
新作落語と捉えたとき、実に綺麗にオチている。
コントも落語も、オチがウケればそれは望ましいことだが、無理にウケようとする必要などない。

しかし、オチよりも本編全体に、より落語らしさを感じた。
いびられ続けたことに耐えかねた嫁が、ついに姑を殺そうというネタである。
殺人未遂の描写に変なリアリティが漂ったら、コントにならない。それは放送事故だ。
殺そうとする嫁の側に、過度の共感もないほうがいい。
殺されようとする姑のほうにも、そんな奴死んじゃえという感情移入は要らない。
とにかく軽い。軽くないと成立しない。
彼女たちの動きは直接笑いに貢献しているというより、むしろ軽さに貢献しているのではないか。

こういう枠組みに、落語との共通項を強く感じる。
動きの多いコントに、落語との共通点を感じるのは不思議だが、でも落語だったらどんな状況でも所作で表現できる。
根本的な差はさしてない。

シチュエーションと、純化された記号のような感情だけがあれば、人殺しのようなネタでも、立派な笑いを生み出せる。
余計なスイッチを起動させないよう、テンションを上げてリアリティを消し、進行するところが上手いなと。
といってもテンションを上げっぱなしにすると、その状態で安定してしまう。するとやはり悲惨な状況は描けなくなる。
スイッチの起動を避けるときだけ、テンションを上げるのである。
余計な感情を押さえて観ると、殺されないよう右往左往し、ついに退路をふさがれて逆襲しようとする姑が実に楽しい。

コントで余計なスイッチを発動させないのは、かなり難しいスキルなんじゃないだろうか。
「はなしょー」の二人のキャラの貢献度も大きいと思う。
姑だけでなく、嫁のほうも、感情発動スイッチを押さないよう工夫している様子だ。狙っても、キャラ的にこうできない人も多いはず。
狙ってこういう世界が作れないなら、自分のニンに合う芸をしなければならない。

漫才のほうが、むしろこういうネタはやりやすいと思う。「ごっこ」をしますという前フリから入ればいい。
落語の場合だと、いざとなれば噺の載っているステージから逃げることが可能。「地に返る」ワザ。
これが上手いのが三遊亭白鳥師で、登場人物に、噺を俯瞰した部分から状況説明をさせたりすることで、噺にマジで迫り過ぎないよう工夫している。

決勝で負けた幼稚園のネタも、再度見直してみると結構落語っぽい。
そもそも、こんな新作、どこかにありそうだ。
ただ落語の場合、「女性が男子幼稚園児を演じている」という面白さは得られない。全員を演じるのが落語だから、噺に吸収されてしまう。
落語にしたときは、うまく運ばないと、過剰演技で自滅する危険はある。

二ツ目の噺家、つまり若手にも女流新作派が多数いるが、はなしょーのようなネタが作れたら、必ずウケると思います。
パクリじゃなくて。
私もこんな落語が書きたいなと思った。

ブログの広告貼ろうと思って、Yahoo!で「コント」を検索したら、女性下着がいっぱい出てきた。
これも女芸人つながりか。たぶん違う。

作成者: でっち定吉

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