黒門亭20 その1(古今亭菊一「子ほめ」)

前の日、土曜日も赤羽岩淵まで出かけたばかり。
8日の日曜は仕事をする予定だったのだが、やる気が出ない。結局サボって、連日で出かけてしまった。
行き先は黒門亭の2部。主任は柳家一九師で「藪入り」。
並ぶメンバーでないので直前に出向くと、1部が押した様子。入場が始まらず短い列ができていた。
1部の番組は「二ツ目がトリ」で、そのトリは林家はな平さんの「文七元結」だった。力入り過ぎた?
入場を待ちながら落語協会事務局の壁を見ると、来春の真打昇進ポスターが貼ってある。
一度も聴いたことのない春風亭一左さんにやや惹かれる。

定員40人の黒門亭だが、この2部は半分に満たない入り。
そんなさみしい寄席だが、すばらしい内容でありました。
エースの先発投手も、不動の抑えもいない日だが、中継ぎ投手5人が1~2イニングずつを見事に完封リレー。そんなブルペンデーみたいな番組。
こういうことがあるので、黒門亭はやめられない。

前座は、初めて聴く古今亭菊一さん。菊太楼の弟子ですと挨拶。
寄席で高座返しをしている姿は最近見た。
特に本人から説明がないものの、顔が明らかに白人とのハーフ。「ハーフ顔」ではなくて。
顔が気になって、なかなか噺が頭に入ってこない。
スウェーデン人の三遊亭じゅうべえさんだったら最初から気にならないけども。
ハーフの噺家って、快楽亭ブラック師以来じゃないか。春風一刀さんはクォーターらしいが。
しかしいったん、語っている噺(子ほめ)が頭に入ってくると、その語りは音楽のようだ。
めちゃくちゃ上手い。前座離れしている。
前座というものは、この段階に到達する前の、朴訥な喋りの時代があるのが普通だと思うのだ。その段階を踏まえない人は、結局なかなか伸びないという認識でいる。
だが、その段階をすでに軽く突き抜けている。
オチケン時代が長くたって、こういう喋りにはならないのでは? むしろ変な癖が付いて師匠に注意されそうだ。
リズムのいい、心躍る子ほめ。
ちなみに伊勢屋の番頭さんを褒めてやろうとして、あべこべに「町内の色男」と呼ばれ、間をおいて「さよなら」。これでバカウケ。
隠居に褒め方を教わっておきながら、番頭さんを褒めない子ほめは、さん喬師で聴いて以来である。
サゲまでスキなく見事なデキ。

菊一さん自身、かなり噺に迫り、考え抜いているらしい。教わった通りに喋っているわけではないようだ。
たとえば隠居は、褒め方を覚えたら酒が飲めますかと訊かれ、「必ずってことはないがな」と念を押している。
そりゃそうだよね。必ず飲めるわけはない。落語にしばしばみられる安易なご都合主義に走らないのだ。
そして「時に竹さん、このお子さんはあなたのお子さんですか」もない。そういうのが嫌いなんだろう。
その代わり、「お子さんがお生まれになったそうで」と語り、「よせよ、知ってるから来たんだろう」と竹さんに言わせている。

菊一さん、どんな人なのか気になるので調べたら、お父さんがロシア人だそうで。小袁治師の「新日刊マックニュース」より。
そして、東大の出身。大学院まで出ている。専攻は哲学。しかもサルトル。
そうか、最近東大出身者が入ったとどこかで聞いた気がしたが、この人のことか。
前座になったのは今年だが、すでに2年見習い期間があるらしい。今は楽屋入りするのも順番待ちがあって大変だ。
前座なのにすでに「ハーフ」「東大」というセールスポイントが付いている。
そして、信じられないほど落語が上手い。
楽しみな人。二ツ目になったら、取材が殺到するであろうことは間違いない。
春風亭昇吉さんが東大出身噺家第1号だが、岡山大学をいったん卒業してからの3年次編入なので、なんちゃって東大。
マスメディアに対する東大アピールに余念のない、はぐれ噺家昇吉さん、思わぬところで伏兵に足元をすくわれそうな予感。
菊一さんは、オチケンの後輩なんだろうけども。
「東大を出たのに落語?もったいない」とは、私は全然思わないですよ。
インテリが知性と理屈をフル活用してやる落語、楽しいじゃないか。
東大は珍しいにしても、京大はじめ国立上位大学出身の噺家など、ざらにいるし。

続きます。

(2021/3/5追記)

昇吉さんは岡山大学を卒業しておらず、東大へも編入ではないそうです。「なんちゃって東大」ではないそうなので、お詫びして訂正します。

作成者: でっち定吉

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