黒門亭20 その2(金原亭世之介「時そば」上)

番組の最初は二ツ目枠で、金原亭馬太郎さん。
前座の駒六時代に一度聴いて、いい印象を持っている。
マクラは振らずに、居候の若旦那に入る。
おかみさんの飯の盛り方の描写がたっぷり。こき飯のそぎ飯の叩き飯。
腹が空いて仕方ないので、隣の三味線のお師匠さんのところで計略を使って満腹になる話。
ともに、最近あまり聴かないくだり。
それだけの理由で湯屋番ぽくない気がする。「紙屑屋」かなと思ったら、湯屋番だった。
この2種類の噺は、冒頭に完全な互換性があるのだなと再認識。
湯屋番は、古今亭でやる人が多い。菊之丞、文菊といった師匠のものがスタンダードという印象。
だが、馬太郎さんのもの、ずいぶん違う。
中身がではない。語り口が。
湯屋番はいわゆる、ひとりキチガイ噺。
湯屋の番台で、お囲い者との逢引きを楽しむ若旦那なんて、テンション上げてかないとできない気がする。実際、していた。
だが、実に落ち着いた演出である。まったく弾まない。
弾まないのに、とても楽しい。
淡々とした語り口でも人物と妄想を丁寧に描けば、登場人物が噺の中で勝手にはねて見えるということだ。
「無駄に弾まないな」という演者への印象と裏腹に、若旦那の弾みっぷりが私の記憶に残っている。
番台から落ちてまた昇るあたりの。
二ツ目になって間もないのに、実に上手い。

前座、二ツ目と、キャリア浅い人たちから続けて達者な芸を見て、すっかり嬉しくなってしまった。
古今亭の未来は実に明るい。そして黒門亭の未来もしかり。

仲入り前の出番は、金原亭世之介師。
久々のこの師匠はちょっと楽しみにしてきた。
「黒門亭へようこそ。あんまり人気の噺家は出ません。小朝とかは」
小朝師なんて寄席にも出ないじゃないかと思ったが。

今日も運転してきたのだが、ながら運転の取り締まりが厳しくなったと世之介師。
2秒脇を見たらアウトだ。
いずれ、「食べながら運転」「話しながら運転」も禁止されるよなんてマクラ。
批判めいているのだけど、世間のドライバーへの風当りの強さに反する意見だから、どうだろうと思ったが。
桜を見る会批判、麻生副総理批判も特に脈絡なく入る。
そして、川口に住む世之介師、先日の台風について。
荒川が気になった世之介師。
台風のたびに、大水を見にいく人がいるものだと。You Tubeにアップしたり。
そういうことをするのはだいたいジジイだ。女の人はまずしない。
ジジイはあんなことをよくするものだと、日ごろから呆れていた世之介師だが、先日はアタシも見にいっちゃっただって。客、爆笑。
年を取ると変なスイッチが入ってしまうのだと。世之介師、まだ61歳だけどね。
年を取るとボケてくるが、でも面白いこともある。
兄弟子の雲助師と話をした。本屋に行って、面白そうな本を買って帰ると、うちに2冊あるんですと世之介師。
その話を聞いて雲助師、そんなもんじゃないよ、俺なんか、毎日かみさんの顔を忘れるんだって。
毎日違う女がうちにいるから楽しいよだって。

マクラはいろんなところに飛ぶ。
政権も落語協会も、上がダメだと腐敗するだって。強烈なシャレ。

川口で、先日参議院の補選があった。N国・立花孝志が賑やかしに出たやつである。
前の埼玉県知事(上田さん)が出馬していた。
この応援に来たのがアントニオ猪木。
選挙の争点は、川口のいじめ問題。
なのに猪木が来て、若い人たちにビンタをしている。これはいじめじゃないのかと。
ビンタを食らうと、猪木の名刺にサインを入れてもらえる。これが目当て。
そんなもんもらって、あいつら馬鹿じゃないのか。
といいつつ「私ももらいました」と言って袂からその名刺を取り出す世之介師。

最近の前座は大変だという話も。これは、一般的な認識とはやや違う気がするのだが。
語ってはいなかったが、世之介師のところには現在3人の前座がいる。
昔の前座は、酒でしくじっても首にはならなかった。今はずっと厳しいだって。
東宝名人会の楽屋など、師匠と離れているので、前座は一杯ひっかけて高座返しに出ていったんだと。
そんなことが師匠に知れても、常に酔っぱらっていた師匠・先代馬生は叱らなかった。
なにしろ馬生は、歩くといつもショウジョウバエがたかってきた。体から、奈良漬けみたいな匂いがするんだそうだ。
そんな生活だから早死にしてしまったのであるなとこれは私の感想。

非常に楽しいマクラ。だが本編はさらに楽しかった。続きます。

 

文七元結/時そば

作成者: でっち定吉

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