池袋演芸場18 その6(三遊亭遊雀「替り目」上)

昼席主任の柳家蝠丸師と、夜席の痛い前座についてはすでに触れた。
池袋に居続けて、夜席前半。

今日もお美しい小泉ポロン先生は、「ステファニー」からは独立したらしく、ご自身の名前で出ている。
衣装がクリスマスツリー。オーナメントがたくさん付いている。
両国でお見かけしたが、本家である芸協の定席では初めてだ。まあマジックだからネタが変わるわけじゃないが。
最初にちゃんとしたマジックを見せて、「ホーホッホ」。
それから、専門ショップで買って使わない、「積みマジ」の世界。

瀧川鯉橋師は無精床。
最近落語協会の前座から、床屋の客がかわいそうになるこの噺を聴いた。前座がやっていい噺なのか、そもそも。
私以外の客にはウケてたようだけども、どうもこの噺は苦手である。
下手をすると、「らくだ」レベルの暴力性すら勝手に味わってしまう。
でも鯉橋師だと、生々しさがなくて実にいい。
頭から血を噴き出しているのにもかかわらず、とぼけている、そんな世界がとても味わい深い。
ボウフラ飼ってるとか、犬が耳を狙いにくるあたりのグロなクスグリはなし。
こういう強烈なギャグ、単発としては確かに面白いクスグリなのだけど、でも噺にネガティブ要素を貯めていくのだなあと思う。
鯉橋師は基本的に、シンプルな噺が好きなようである。そして客の私もそうみたい。
クスグリを省略するというのは、勇気がいると思う。でも、勇気を奮ってシンプルにした結果、味わいが増すということがある。

「浅草お茶の間寄席」でたびたび聴いている宮田陽・昇の漫才だが、実は生の舞台は初めて。
芸協の色物さん大好きなのに、なかなか定席に来ないから、噺家よりさらに遭遇しない。
ネタは知っているものばかりだが、いい寄席漫才は、繰り返し聴いても実に楽しい。
何の脈絡もなく「お前中日の谷繁に似てるな」というボケが炸裂したり、たまらん。
これだって知っているネタだけど、脈絡のなさにより、いくらでもウケは取れる。
私は昇さんのツッコミが大好き。落語の隠居みたいな、加減したツッコミがたまらない。
いや、本当はしっかり突っ込んでいるのだけど、役割的に緩いのだ。ボケと対立しないから、疲れないのがいい。
昔よくあった、ツッコミが仕事をちゃんとしない漫才だと、これはこれで不自然なやりとりなのでくたびれる。
寄席にぴったり、客の気持ちに寄り添う、非常に気持ちのくつろぐツッコミである。
そして今回、生の高座で感じたのが、昇さん、実に仕事が楽しそうだなということ。
もっとも基本仏頂面の人なので、ストレートに楽しそうなんて様子は見せてはいない。
でも平日夜、客席がやや薄い中で、「この舞台で漫才ができて、この相方のクレージーなボケに突っ込める俺って幸せだなあ」という空気がどことなく漂う。
それを濃厚に感じるので、寄席好きの私も幸せになるらしい。
漫才なら、コンビの結びつきは強いほうが、客もまた楽しい。
ちなみに、昇さんの長男はるき君が来年小学校に上がるというネタを振っていたが、奥さんは落語協会の柳亭こみち師である。

三遊亭遊雀師も楽しみなひとり。
移籍組だが芸協のエースだと私は思っている。
だが、池袋でのトリがない。
池袋派の私としては、ここで遊雀師のトリが聴きたいのだが。月1回しか席のない芸協だって、昼夜併せて最低でも24人はトリが取れる勘定だ。
池袋の席亭、お願いしますよ。
酒の噺が、昼からまだ出ていなかった。ふぐ鍋ではツいたことにならない。
まるで酔っぱらっているかのような遊雀師、酒の噺がいちばん面白いのでは。
アタシの大好きな酒の小噺しますと。
東京かわら版の巻末、長井好弘氏のコラムに、北海道での遊雀師の模様が書かれていた。
酔っ払い親子の小噺やって、「アタシなんといわれようともこの小噺好きなんですよ」と語ったという。
だが、親子の小噺ではなかった。ぐずぐずの酔っ払いが、空に浮かんでるのがお日さまかお月さまかわからなくて別の酔っ払いに訊くやつ。
私も大好きな小噺である。
遊雀師、アルコールだけでこうなれるっていうのがいいよねと。
薬物なんかいらない。沢尻ちゃんも、アル中になっておけばよかったんだよと。
噺家人生を酒でしくじってる人なのに、酒礼賛。

遊雀師の本編に続きます。

 

作成者: でっち定吉

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