アニメ「昭和元禄落語心中」の落語/第四話

アニメ「昭和元禄落語心中」に出てくる落語につきいろいろ書いてみます。第四話に出てくる噺はふたつ。

夢金

初太郎改メ「助六」が高座で喋っている。降りしきる雪の情景、それから悪い侍の造型を見事に描き出している。袖から複雑な視線で菊比古が見守っている。
夏の「船徳」と並ぶ、船頭ものの名作。強盗殺人が絡み、スリルとサスペンスと、もちろん笑いも溢れている。タイトルがネタばれなのが少々難点。まあ、サゲを知って聴いても楽しめるのが落語というもの。
ケチのマクラを振って噺に入り、サゲもケチにかかわる内容。しかし、クライマックスは別にケチでなくても成立する。というか、本当にカネが欲しいだけの人間なら噺の中身が違ってくる。
クライマックスの熊さんはカッコいい。矛盾に満ちた人間を描き出すのが落語ならば、その点非常に落語らしい。

明烏

師匠に稽古をつけてもらっている菊比古。「稽古のし過ぎ」で遊びがないと叱られる。自分の落語を見つけろと教わる。
「明烏」は、固いだけの若旦那に遊びを教えようと、旦那が骨を折って吉原デビューさせる噺。まさに、行き詰った菊比古にとって、乗り越えるべき内容である。
明烏は、よく考えたら不思議な噺だ。類似の噺が見当たらない。一部だけ似ているのが「錦の袈裟」か。廓というところは、廓噺に限らず落語にとっては次のようなところ。

若旦那がハマってしまう悪所
客なのに、うっかりするとひどい目に遭わされるところ
行きたくて仕方がないがカネがなくて行けないところ
カネに困って娘を身売りするところ5.詐欺客が来るところ

源兵衛と多助とが、振られることでかろうじてバランスを取っているものの、「明烏」で描かれる吉原は、以上のどれでもなく、パラダイスだ。
日常に、異様な人物・異様な事象を放り込むと落語になるのだが「明烏」の場合、「吉原」が日常で、「異様な人物」が若旦那である。
まあ、分類して落語の面白さがわかるようなら世話はないですが。

第五話に続く

作成者: でっち定吉

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