池袋演芸場19 その3(志ん五・菊志ん・楽一)

次は古今亭志ん五師。
若手真打の中ではわりと売れてる人だが、それでも寄席のトリはまだ取っていない(師匠の代バネはあったようだ)。
それだけ寄席でトリを取るというのは大変なことなのだ。まあ、じきに取るだろうが。
久々にお見かけしたが、記憶の中の志ん五師と喋り方がずいぶん変わっている。声を張るのではなく、ボソボソっと喋る。
そして、これが実にハマる。
昼間から大勢集まった客を眺め、どうしてこんなにと。
二ツ目・志ん八時代のこの人に、神田連雀亭ワンコイン寄席で平日昼間同じことを言われ、いささかムッとしたことがある。
土日に仕事して平日に来てるのであり、別にムッとすることはないのだが、言い方ひとつである。
だが今回は、お客さんたちは富裕層なんですねと。そこに不快感のかけらも漂わなくていい。

トリの駒治さんと同様、私も師匠を喪って、先に出た志ん吉さんの師匠である、志ん橋に引き取られましたと。その志ん橋師のエピソード。
これが爆笑。
志ん橋師の売り物は、スキンヘッドとダミ声。
志ん橋師を知っている人はもちろん、知らない人にも楽しいはず。
電気シェーバーを、毎朝ヒゲから頭にそのまますべらせていく志ん橋師。弟子が聴いていると、シェーバーが頭に移動した際、音が変わったのがわかる。あ、境目があったんだと。
甘いものが好きで、弟子に一緒に食べようという、とても可愛い志ん橋師。
「たべよー」というフレーズがたまらない。
志ん五師、師匠とのチョコチップロールケーキのエピソードだけで一席終えてしまうが、実に楽しかった。
生え抜きの弟子3人以外に、真打昇進前に師匠を喪った弟子4人を引き取っている志ん橋師、とても懐深い人のようである。
色物の少ない池袋下席はやや特殊な番組。前座から4人落語が続くので、客を疲れさせないため、漫談を入れるのは実に重要な仕事である。
でも、池袋で漫談聴くのは、とても珍しいことでもある。

古今亭菊志ん師は、昨年の同じ芝居でも聴いた、楽しい花見小僧。被って嫌な気は一切しない。
そういえば、その際散々JALのことをdisっていたのに、その後すぐJAL名人会の収録をしていた。嘘つきな師匠。
察しの悪い主人と、番頭さんとのくだりはばっさりカット。
女中、お清の化け物っぷりが、1年間でさらにエスカレートしていた。
いっぽう、徳三郎のスカシっぷりは控えめになっている。もっぱらお清に焦点を絞ることにしたらしい。
古典落語にキャラを持ち込む手法は意外と珍しい。喬太郎師だってやってない。
花見小僧を「なら足出せ」で落としておいて、続く刀屋のあらすじを予告しておき、袖のほうを向いて「お時間でございます」という、宮戸川方式。

全然関係ないのだが、菊志ん師のツイッターを久々に見た。
正蔵・三平兄弟が大きく取り上げられている地方の「名人会」を取り上げて一言だけ。「名人会」だって。

池袋下席は、色物は2組だけ。
本来のヒザがなぜ変更になっているのかわからないが、林家楽一師。
この人も久々にお見かけするが、ボソボソ喋って実に楽しい。
師匠・正楽を始め他の紙切り師は、積極的にネタを振っていく。それが普通のこと。
だがひとり楽一師だけは、極めて受動的。
「体は揺らしません。揺らす紙切りが見たい人は、ご自分で揺れてください」。こんなのも、客の反応を見てからである。
うっかりすると、黙ったまま揺れずに紙だけ切って、それで全然間が持つところがすごい。
注文をした客の顔をじっと見て、いろいろ探っていく。
ちなみにこの日の客は、「待ってました」は多いくせに慎み深く、我先には注文しない。
「新国立競技場」という注文で、悩む楽一師。まだ使ってないですもんねと。サッカー天皇杯でもうこけら落とし済ませてるけどね。
「木の香りがする」という情報をヒアリングして、結局聖火ランナーと「木」という字を切り抜く。
「紙切りをする楽一師匠」というお題では、ねずみを切り抜く自分自身の姿を切り抜く。
私も注文したかったのだが、小さいバッグしか持ってきてないのでやめた。

続きます。

 

作成者: でっち定吉

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