池袋演芸場19 その2(古今亭志ん吉「たらちね」)

午前中は仕事をする。昼どき、池袋の日高屋で軽く一杯やってから、演芸場へ。
客の入る1月なので、割引券は出ていない。
池袋の下席昼は、午後2時開演と遅く、そして演者が少ない。毎月落語協会固定の非常に密度の濃い番組である。
上席・中席の際には片付けられる補助椅子が、下席だけは出る。
補助椅子がなければ、9分の入りにはなっているのではないか。平日からなかなか盛況だ。

主任・古今亭駒治師に合わせて、菊志ん師など古今亭の人が顔付けされている。
それ以外は、彦六の正蔵系統の、圓太郎、文蔵、彦いちの各師。この3師匠は、池袋の不動のレギュラーメンバーという印象。
それから三遊亭より、天どん師。
新作派も古典派もまんべんなく顔を揃え、さすが池袋という顔付け。
久しぶりに、交互出演や出番入れ替えをきちんと反映させた、この日単独のプログラムをもらった。
落語協会の席のときだけこれが配られる。でも私は久々に見た。

年配というほど年配でもない、妙齢の女性が多い。
駒治師と一緒に鉄道落語会をする、柳家小ゑん師のファンと似ている気がする。実際、共通もしているのだろう。
なぜ女性が鉄道落語に惹かれるのか。
わからない気もするが、感覚的には意外とよくわかる。
ちなみに駒治師も述べていたのだが、鉄道のほうから入ってくるファンもいると。
まあ、いろいろな人がいても、全体的にはいつもの質の高い池袋のファンである。

堀の内 前座
たらちね 志ん吉
漫談 志ん五
花見小僧 菊志ん
楽一
時そば 文蔵
化け物使い 圓太郎
(仲入り)
肥辰一代記 天どん
遥かなるたぬきうどん 彦いち
青空一風・千風
車内販売の女 駒治

 

前座は、このブログで名前を出さずによく批判している人。
それだけよく遭遇しているのはアンラッキーなことだ。
しくじりをすればするほど楽屋の師匠方に喜ばれるというユニークな人。与太郎みたいな人間性が嫌いなんてことはないのだけど、肝心の落語がなんだかな。
「堀の内」をオーバーアクション、クスグリ過剰、展開過剰で演じ始めたので、寝ることにした。私の嫌いな要素が3拍子揃っている。
基礎のない前座が間違った方法論で懸命に演じる落語なんて聴きたくなかったので目を閉じていたのだが、一杯引っ掛けてたのでじきに熟睡してしまった。
前座は前座らしい朴訥な落語をまずきちんとこなさないと、その先の段階に進めないというのが、寄席に通う私の観察である。
しかし堀の内って、前座噺っぽいが実際にやる前座はいない。落語協会では初めて前座から聴いた。
後半寝てたので、全体的なデキはわからないが予想は付く。

(※ 隠していましたが、林家やまびこです。現やま彦。2023/7/6追記)

そんなスタートを、二ツ目枠で出てきた古今亭志ん吉さんが、前座噺の「たらちね」で綺麗にリセットしてくれた。
神田連雀亭に出ていないわりには、巡り合わせもよくてずいぶん数を聴いている人。
たらちねという噺、子ほめや道灌ほどには頻繁に掛からないが、私はとても好き。
「自らことの姓名は」の言い立ては、大人になってから覚えた。志ん吉さんのは、「清女」でなくて「亀女」だった。
亀女は初めて聴いたな。鶴女が亀女になって、縁起がいいんだろう。
兄弟子・駒治師の初トリのために、めでたい噺を出したいところでもあろう。
「チンチロリンのガンガラガン」は丸ごとカット。15分の枠だからだろうけど、後半でなくて前半のウケどころをカットするのが面白い。
翌朝のネギ購入から、「酔ってくだんのごとし」まで。
そして、志ん吉さんがいかにすばらしいかの証明がある。
私、このお亀さんが嫁に欲しくなりました。落語聴いてそんなことを思ったのは初めて(かみさんはいるけど)。
言葉はすっとんきょうだけど、嫁いできて八っつぁんに一生懸命尽くすさまがよく伝わってくる。そんな描写、直接的にはどこにもないのに。
現代的視点のさりげなく入った素敵なたらちね。

マクラでは志ん吉さん、二ツ目なのに1月から寄席に入れて嬉しいと。
珍しく今年は正月早々から仕事があったが、落語ではなく、ホテルオークラのビンゴ大会の司会だったそうである。
客の子供が欲しがっていたニンテンドーSwitchはよその大人に当たり、子供にはハズキルーペが当たった。正月早々、人生の厳しさを教えられただって。
なおこの後、楽一師の紙切りの際に笛が入ったが、たぶん楽屋に残っていた志ん吉さんが吹いてる。
仕事なんていうほど大層なものじゃなくて、気が向いたから吹いてみたのだろう。
NHK新人落語大賞にも2度出た達者なこの人、真打昇進は、来秋か、2022年春あたりと思われる。

続きます。

 

作成者: でっち定吉

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