池袋1月下席(昼席)は、古今亭駒治師の初の主任。早速初日に行ってきた。
寄席の主任を務めるというのは、噺家にとり大変な栄誉である。まことにおめでとうございます。
真打に昇進して、1年強でトリを取るのもすごいこと。
新作落語界において、駒治師がいかに重要かということである。
そしてここ池袋秘密倶楽部こと池袋演芸場は、新作落語の殿堂のような寄席。
その、駒治師匠の高座から先に。
ヒザ前の彦いち師が仕込んでおいたので、「待ってました」の嵐。
ご本人は、親戚を呼んでおくといいですねと。
私の主任、31日までありますので、あと10日とは言いません。9日ぐらいは来てくださいと。
最近、鉄道落語会に鉄道業界の人が多く来るらしい。昨年の小ゑんハンダ付けの鉄道落語会でもそう言っていた。
だから気が抜けないと駒治師。こりゃ、寄席でも鉄道縛りにならざるを得ないね。
師は、旧汐留駅舎で落語会をやったらしい。私はあそこの展示室にはときどき行ってるのに、落語やったのは知らなかったな。
そこで、「十時打ち」を掛けた。
十時打ちは私も2度聴いた。東京駅と上野駅が対立していて、上野側が悪役という楽しい噺。
さて汐留の博物館のスタッフは、学芸員を除きみな元鉄道マンである。運転士に車掌に。
そして館長は、あろうことか元上野駅長。
それを知って申しわけありませんと恐れ入る駒治師に、いいんですよ、実際あんなもんですしと元駅長。
駒治師のマクラの面白さは、落語協会でも随一と思う。
ネタ自体も面白いが、どこへ連れていかれるのだろうというサスペンスをはらんだ語り口がたまらない。菊之丞師などにも通じる話術。
主任の芝居の初日なので、代表作の「鉄道戦国絵巻」が出そうに思い、それだけやや心配していた。
何度聴いても楽しい噺ではあるが、さすがに数を聴きすぎている。
鉄道落語以外も多数ある人だけども、他の師匠方からも鉄道落語の駒治と散々アオられているから、別の系統の噺はしにくいんじゃないか。
幸い、初めて聴く噺だった。「車内販売の女」。
新幹線のぞみでの、車内販売員たちの対立と和解(?)を描く新作落語。
他の噺と同様に、設定はぶっ飛んでいる。
だが、ストーリー展開に妙にデジャ・ヴを感じてオヤと思う。初めて聴くはずなのに、クスグリに覚えがある。
No.1売り子が売上のためにサイボーグ手術を受けていたりとか。
ああそうか。「ビール売りの女」という落語を聴いたことがある。神宮球場のビール売り子の女たちの対決の物語。
それを作り替えたのがこの、車内販売の女らしい。
ビール売りの女はとても楽しい噺で、もう一度聴きたいと思っていた。だから違う世界の落語を聴けて、ちょうどいいや。
いきなり、新幹線のぞみにおける車内販売の売上No.1、マキ嬢から氷結を買う噺家、今昔亭駒ん治師匠。
弟子の駒ンドーと駒ネチも一緒。
なじみのマキ嬢の口車に乗せられ、今日も氷結30杯買ってしまう。
駒治師の落語の方法論として、この噺もまた「ボケっぱなし」が多くて面白い。「8歳をカシラに15人の子供」とか「なじみの客は他の売り子から買ってはいけない」とか、わかりやすいボケなので、ツッコミは不要。
ボケっぱなしという手法は、他の噺家からは聴いたことがない。
新作落語の旗手であり、鉄道落語のパイオニアである駒治師であるが、それだけではない。落語を作る独創性のすばらしさよ。
No.1売り子のマキ嬢は、他の売り子に対して露骨な嫌がらせを平気でする。なんでも、昔はああいうのではなかったらしい。その気持ちを取り戻そうとする、元のライバル、現在は金魚売り。
なぜか氷結売上対決で、あの頃のマキを取り戻すと意気込んで勝負に。
とっくに東京駅に着いた車内から客は誰も下りず、売上対決をするふたり。
設定がめちゃくちゃなのだが、あえてどんどん、あり得ない状況を入れていく駒治師。
するとどうなるか。噺の中に勝手に整合性が生まれてくるのである。落語のマジックといえようか。
それにより、噺の中の矛盾を探す行為は無意味になる。
そして、友情・ライバル・憎しみ・和解といったあらゆる要素が、これも自然に落語から噴き出てくる。いやらしくない、ピュアな感情が。
ああよかったねと、最後は爽快感を持ってこのくだらない噺に感動するのである。
1か所、大事なところで噛んだが、ギャグにしてリカバリー。
口調が滑らかなのに噛み癖があるのだけが駒治師、玉に瑕。でも、年々噛まなくなっているように思う。
駒治師は、必ず新作落語のレジェンドになる。
そういう意味では、鉄道落語家というくくりの強化は、ある種両刃の剣かもしれない。
野球落語とか、もっと別のくくりも増やしていって、鉄道色を薄めたほうがいいんじゃないかなんて思ったりもする。
それはそうと、もう一回ぐらい、この芝居来ようかしらなんて思ったり。
池袋、冒頭に戻って続きます。