小ゑん駒治鉄道落語会@お江戸日本橋亭 その3(古今亭駒治「十時打ち」)

古今亭駒治「十時打ち」

続けて古今亭駒治師登場。
昨年、もっとも多くの高座を聴いた噺家なのに、今年はまだ一度だけ。
駒治師自体は真打昇進後も極めて忙しいので、これはあくまでも私の都合である。
もちろん、もっともっと聴きたい、得難い才人。

口調が滑らかなのにしばしば噛むという矛盾だけ、駒治師の唯一の欠点。速い口調がスリリングさを生む以上、このスタイルは変えられない。
だがこの日の2席に関しては、口慣れているのか噛む場面はほぼなかった。
そして小ゑん師とよく似ているのが、同じマクラを語っても客を飽きさせない点。この日については、すでに聴いたマクラはなかった気がするが。
古典落語はほぼやらない駒治師だが、ちゃんと古典落語を消化したうえで新作に特化しているらしい点もまた、小ゑん師に似ている。

小ゑん師の鉄の男に触れて、すごいですね、最初からいきなり50分ですよと。
なるほど、確かにたっぷりの高座だった。
すごいですね、満員でと駒治師。客席を見回すと、メトロの人や、信号機作っている人など、プロの方がいます。
お休みの日まで鉄道ネタを聴きにくるなんて感心します。
私が休みの日に寄席に行くようなものです。絶対嫌ですって。

小ゑん師はよくご一緒するが、本当に優しい師匠なんですと。
それに比べてと、先日ここ日本橋亭で一緒だった円丈師の話。ぼく、ゲストだったのに、いきなりトークコーナーの司会をやらされたんですと。白鳥・小ゑん両師が帰った後で。
円丈師の落語全集の宣伝のためトークコーナーが始まるが、駒治さん、第1巻が品切れという情報しか与えられておらず、何巻まで出ているのか知らされていない。
それを円丈師に確認したところ、円丈師の無茶振りと突然の立腹に客席まで引いてたと。
円丈落語全集は計5巻まで出版の計画だったが、出版不況を受けて2巻まで出した後続きがない。計画は縮小したにしても3巻はもう出ないのだろか。
関係者なのにそれを知らない(のだとして)駒治師もまずいのでは?
円丈ネタは場内爆笑でした。
ご本人、これ書かないでくださいねって言ってたけど、シャレで済む内容だと思う。

駒治師、人気の列車の指定席を取るための、「十時打ち」というものがありますと本編に入る。
あ、十時打ちか。昨年六郷土手の会で聴いたのと被っちゃった。
一席目が鉄の男で、二席目が十時打ち。
そうなると、この日の鉄道落語4席で未聴なのが「トニノリ」だけになってしまった。まあ、いずれもこの上ない楽しい噺なので、いいけど。

東京駅みどりの窓口に並ぶテツの回想に、明烏のパロディが入っている。
さすがこの日の客にはビシッと伝わる。源兵衛と多助という人名だけでわかるんだから偉い。

駒治師ならではの、馬鹿丸出しの噺。
東京駅の、十時打ちの達人、谷口氏が、娘の駅員、みどりとともに上野駅に監禁される。
言うことを訊かなければ、娘は東武に売り飛ばすぞと。
「東武はひどい。せめて西武にしてくれ」
あ、前回聴いたときは東武と西武でなく、京急と東急だった。会場が沿線だったから変えていたのか。
さりげない気遣いに感心。

上野駅のために十時打ちをさせられる羽目になる。東京駅にも上野駅のスパイがいて大混乱。
だが、鶯谷の駅員たちが救い出してくれる。
この噺のトンデモ世界観、この後のネタ出し「旅姿宇喜世駅弁」と結構被っている気がするが、気にしない駒治師。
初めて2席聴く人は、ごっちゃになってしまわないか勝手に少々心配。

この日の前座の、しょうもない新作のことを思い出す。この新作にも効能があった。
駒治師の噺、トンデモ世界であっても、その世界を動かすルールがちゃんとしているということを改めて思い知る。
プロ駅員の谷口氏は自分の仕事に誇りを持っている。
悪役の上野駅員は、東京駅に比べ虐げられていることに不満を覚えている。
そして、勧善懲悪の世界観において、正義は勝利を収めるし、気持ちのいい皮肉な結末も待っている。
当たり前なのだけど、実は古典落語よりもずっと行動原理がしっかりしているのである。
だから、いい大人が聴いて喜ぶのだろう。

続きます。

 

作成者: でっち定吉

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