小ゑん駒治鉄道落語会@お江戸日本橋亭 その4(古今亭駒治「旅姿宇喜世駅弁」)

古今亭駒治「旅姿宇喜世駅弁」

仲入りはお手洗が長蛇の列。また、女性が多いだけに。
なのでなかなか後半始まらない。
後半は順番を入れ替え、駒治師から。
ネタ出しの「旅姿宇喜世駅弁」。昨年、国立演芸場の披露目で聴いた噺。
この会のチラシには「の」の字が入っているが、恐らく入っていないのが本当だと思う。
国立の際は「旅姿浮世駅弁」だった。ちょっと歌舞伎っぽくおシャレなタイトルに変わっている。

2席目なので、マクラは早々に本編に。
これまた実にくだらない、くだらないが世界の行動原理は非常にしっかりしている噺。
運行見合わせで、田舎の小駅に停まる列車。今では貴重な、立ち売りの駅弁スタンドが出ている。
そこで駅長と、別の駅弁業者越後屋の悪だくみを聴いてしまい、監禁される主人公夫妻の妻。
架空の書面を元に、営業権を譲り渡してしまったことになった駅弁屋。
悪だくみを聴いてしまったのは、盗み聞きではなく、このふたりがマイクをつけっぱなしで話していたからだ。
マイクは、運行見合わせのために放送した直後だったのを、切り忘れたもの。こういったあたり、ぶっ飛んだ噺だが実に丁寧である。

そこに現れる、ご老公と助さん。実はJRの偉い人で、監視のためにあちこち巡っている。
結局お銀や弥七の活躍もあって妻と駅弁屋が無事救い出される。

監禁された妻が「吉原に売られる」という場面がある。
この吉原は、静岡県にある東海道線の駅である。そこのキヨスクのパートとして売られるらしい。
ここはよいぞ、なにしろ岳南鉄道が分岐するからと語る駅長と越後屋。
ここで駒治師、一瞬地のセリフに戻って、寄席でやると岳南鉄道、誰も知らなくてウケないんだと。
今日のお客だって、別にテツじゃないんだろうけど、なんだか感じ入るところがあるらしい。
それにしても、地に返って演者としてセリフを発する駒治師というのは、あまり見たことがない気がする。
こういうメタギャグも、これからどんどん使っていくのだろうか。新作の売れてる人はみな上手いものね。

そしてちゃんと、フラフラしている鉄道好きの夫が、妻と一緒に駅弁屋で修業をするというハッピーエンドがついている。
駒治師の作家としての腕のすばらしさ。
しょうもない噺に、ちゃんと人々の心情に寄り添うフックが掛かっているのだ。

駅長と越後屋は、罰としてこのあと陸の孤島、方南町に幽閉されるらしい。
前回聴いたときは北綾瀬だった。北綾瀬も方南町も、陸の孤島でなくなるらしいが。

「十時打ち」もそうだが、悪人どもが見せる「フォッフォッ」という含み笑いとか、こういったものを照れもせず堂々と演じる駒治師はすばらしい。
いや、もちろん照れたら話にならないけども。

続きます。

 

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作成者: でっち定吉

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