小ゑん駒治鉄道落語会@お江戸日本橋亭 その5(柳家小ゑん「トニノリ」)

柳家小ゑん「トニノリ」

非常に濃密な時間を過ごし、ついにトリの小ゑん師2席目。
マクラは、最近橘家文蔵師の「千早ふる」とコラボしている「鉄千早」について。
もともとは、寄席で小ゑん師の前に出る文蔵師が、千早ふるのサゲで「とわ・・・とわは、次の小ゑん師匠に聴いとくれ」とサゲていたのがきっかけ。
小ゑん師いわく、「姑息なサゲ」。
だが小ゑん師この挑戦を正面から受けて、「鉄千早」を続けて掛ける。このコラボがお客にバカウケ。
普段文蔵と、順番が続くことなんてそんなにないのだと小ゑん師。同じ芝居でも、だいたい離れて配置される。
なのにこれ、文蔵⇒小ゑんという順序がたまたま続いたので、またお客の多いときにやってみたら、またバカウケ。
また鈴本の芝居で、この順序で顔付けされているとのこと。「企まれてるんですかね」。

私も聴きたいな。文蔵師の千早ふるも爆笑ものだし。
「鉄寝床」「鉄指南」は黒門亭で聴いたのだけど、「鉄千早」は未聴だ。

そして小ゑん師、私は103系が大好きですと。
山手線と言えばウグイス。そして総武線と言えばカナリアだし、常磐線といえばエメラルドだと。
205系からは、ステンレス主体になって緑は申しわけ程度で気に入らない。でも、今走っているのは緑が復活して嬉しい。
103系のなにがいいか。それは戸袋窓だ。
戸袋はドアが格納される部分だが、最近の電車には、戸袋はもちろんあるものの戸袋に窓がない。
昔の男の子は、戸袋窓を除いてメカニズムを学んだものだと。
103系は、最近まで関西で走っていたが、サビ対策で戸袋窓が埋められてしまっていた。あんなものはダメだと小ゑん師。
そして「トニノリ」へ。本日の鉄道落語4席で、唯一未聴の噺。

103系が現役の時代の噺。
時代背景を物語るため、三球・照代の漫才のネタや、先代圓歌の新大久保ネタが入る。
混雑で、車内をあっちへこっちへ振り回される主人公の所作が、古典落語っぽくて好き。
白鳥師の「座席なき戦い」の所作も思い出す。まさに落語は、総合芸術。

目黒から池袋へ通勤する主人公。隅に追いやられてたまたま戸袋窓を覗いてみたら、黒い紙状のものがある。
じっくり見てみる主人公。なんと、海苔だ。それも上質の。
2日続けて同じ時間帯の同じ車両に乗って、海苔を見つける主人公。これが気になり、頭のことが海苔で一杯になってしまう。
仕事が手に付かず、ついに有休を取得して海苔を追いかける。

実にシュールな設定。
だが、徐々に主人公に対して、聴き手の気持ちが近づいてくるから恐ろしい。
そしてこの噺は、「いかにして戸袋に挟まれた海苔を回収するか」のストーリーを語ったものなのだ。

円丈師の名作「遥かなるたぬきうどん」を思い出した。
これもシュールな設定の作品。だが芯は「マッターホルンにたぬきうどんを届けるにはどうするか」、その方法論を詳細に描いた噺なのだと解釈している。
落語に限らないが、物語はこだわりを追求すると面白くなるのである。
なぜ海苔を回収しなければならないか、なぜたぬきうどんを届けなければならないかを解決しないので、シュールさは消滅しない。
だが、「どうするか」については人はそこに思い入れを持つことが可能なのだ。
古典落語にだってある。
かつて柳家三三師の、大きく手の加わった「元犬」を聴いて、「犬が人間になったとしたらどう行動するか」を徹底的に掘り下げた作品だという感想を持った。
たまにこう感じる噺、あるものだ。

小ゑん師も満足のいい客なのに、携帯が鳴ったのだけ残念。
師も登場人物のセリフで「電話鳴ってるよ」と突っ込んでいた。
だがやはり大多数はいい客で、師のやむを得ないツッコミも含めて、すべてスルーする。

なかなか取れない海苔と一緒に、山手線をぐるぐる廻る主人公。
サゲはかなり衝撃的。
どうして高級海苔が戸袋に挟まっているかが解決していないところがすごいが。
柳家喬太郎師の「いし」と同種の香りのする、衝撃的名作だ。
感動の4席。

ちなみに、次の小ゑんハンダ付けのゲストは、その柳家喬太郎師。
ぜひ来たい。
と思ったのだが、あまりにも問い合わせが多く、ほぼ今回の会に来て、次回の会の予約を問い合わせた人だけで、もう埋まってしまった。
残念です。
小ゑん師は「ハンダの涙」、喬太郎師は「ふくろうの夜」がネタ出しだそうな。

(その1に戻る)

作成者: でっち定吉

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4件のコメント

  1. このブログを見て次回のはんだ付けの会をWEBで予約してしまいました。受付完了メールがきたので大丈夫かと思いますが、席があるのか心配です。

  2. ばたばたさん、コメントありがとうございます。
    予約取れましたか。お羨ましい。
    私は、受付終了しましたというメールでしたから、ちゃんと取れたのでしょう。
    喬太郎師はあきらめて、12月の馬石師との二人会に行こうかなとちょっと思っています。

  3. 同じ時間に居合わせたようです。
    携帯電話の着信音、私は右端前の方にいて右後ろから聞こえたので、てっきり外の道で音楽が鳴ったのを師匠が勘違いしたのだと思っていました。その後もなんとなく外から祭囃子のような音が聞こえたりしたもので。
    前座さんの新作ネタ、星新一風というか、頑張れば面白くなりそうな気もしますが、よっぽど頑張らないと、という感じでもありますね。

    1. 石さん、コメントありがとうございます。
      携帯の着信音自体が祭囃子だったと記憶しています。
      前座の新作は、星新一っぽいですか、そうかもしれません。ただ、星新一の場合、登場人物の行動に疑問を抱くことはないですね。

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