不倫と落語と落語ディーパー

「落語ディーパー」、司会の不祥事でこの後どうなるんでしょうか? 打ち切り?
NHKでは、「球辞苑」がやっと復活したところなのに、またしても。
正式タイトルは、「落語ディーパー!~東出・一之輔の噺(はなし)のはなし」である。
共同司会ということになる(実際にはそんな雰囲気ではないけども)春風亭一之輔師もラジオで、聞かれてもわからないと答えていた。
収録済みの分がお蔵入りになったら、噺家さんにも気の毒でならない。だが、すでにそういう状況になっているんでしょうね。
こんなことになってから振り返ると、落語界が中途半端な棒読み俳優に過剰に期待し、すり寄り過ぎていた印象すら湧いてくる。
もともと、落語に対する鋭い視点を持っていたわけでもないのにね。新作落語はあまり好きじゃないなんて言ってたし。
まあ、番組の内容は評価されている以上、「球辞苑」と同じくいずれ復活すると思うのだけど。
復活した球辞苑の初回生放送、ナイツ塙がこれでもかと脱税ギャグを入れていたのはたまらないものだった。
そうしてみそぎを済ませた球辞苑、以前にもまして面白くなっている。取り扱う野球という素材自体が面白いのだけど、野球に興味がない人でも、バラエティの一種として楽しめるのではないだろうか。
落語ディーパーも復活時には、一之輔師の厳しい毒舌が求められるところである。
いっそのこと、復活第1回は、不倫落語特集にしてください。ゲストは三遊亭円楽師。
あるいは、未成年相手で桂小文枝師のほうがふさわしいか? かつてのきん枝。

しかし東出昌大、落語を安易に解釈して不倫に走ったのでないことを願う。
「業の肯定」「芸の肥やし」なんて非常に便利なことばもあるわけで。
そもそも古典落語で描かれる世界は、不倫に充ちている。
今回の事件は、本妻と別に、若い妾を囲っていたようなもの。
すなわち、「悋気の独楽」であり「権助提灯」である。
さらに「悋気の火の玉」なんていう、すごい噺がある。
本妻と妾とが相手を呪いあい、人を呪わば穴二つ、互いに死んで火の玉になってからも、なおいがみ合う。突き抜けたシチュエーション自体が楽しい噺。
これらの古典落語の場合は、本妻の悋気(やきもち)振りが笑いになるわけだが、亭主が追い出されてしまうと、落語にはならない。

落語の世界の男は、現代視点からは非常に身勝手に映るので、あまり真似しないほうがいい。
もっとも落語の世界、おかみさんも怖い。典型例が「紙入れ」。
若い男をくわえこんで離さない、亭主にバレる状況にも一切動じない、怖い怖い女。
「風呂敷」も本来、同系統の噺。現在は亭主のやきもち焼きがひどく、おかみさんは無実という設定のほうが主流だが、古い型でやる人もいる。

だが今回の事件にもっとも近いシチュエーションの落語は、「子別れ」か。
子別れは、上中下に分かれている。ごく普通には、「下」である「子は鎹」だけが演じられる。
現実の状況は、上である「強飯の女郎買い」が終わり、中「浮名のお勝」の半ばである。
「浮名のお唐」ってどうだろう(なにが?)。
落語だとかみさんが子供を連れて出ていくのだが、現代の亭主はひとり追い出されるのである。
子別れの熊さんは、品川でなじみだったお勝と吉原で遭遇する。かみさんが出ていった後、これ幸いとこの女郎を引き入れる。
これがなんにもしないぐうたらな女で、やがて勝手に出ていってしまう。
そこでようやく、失ったかみさんの大事さに気付くのである。遅いね。
この女郎はどうでもいい描写しかされないのだが、現実のほうでは責任問題が待っている。
現実世界の話この後、「下」に続くかどうか? 大団円にも、感動巨編にもなるまいな。

最後に書かなくていいことを付け加える。不快に思う人もいるだろうが。
渡辺謙があんなのなので、娘の杏は幸せな家庭を作ろうと懸命であった。にもかかわらずひどい夫だというのが、今回の世間の論調。
だが実のところ、自然と夫が、自分の父と同じような様子になっていったというのが真実だと私は思っている。
アル中の親父にひどい目にあった娘の旦那が、なぜかアル中になるという話はよく聞くところである。
同じ構造が存在するんじゃないか。
別に男の擁護でも女の非難でもなくて、世の中にはそんな因縁もままあると言いたいだけ。因縁はたまたまではなく、理由がある。
三遊亭圓朝だったら理解してくれると思う。

(2020/2/8追記)

落語ディーパー、新たに同じメンバーで2本収録したそうで。
一之輔師が、ラジオ「あなたとハッピー」で語っていた。
期待通り、一之輔師が散々いじったらしいので、カットもされるだろうが期待してオンエアを待とう。

 

子別れ/堀の内

作成者: でっち定吉

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