位牌屋 | 圭花 |
洒落番頭 | 花飛 |
(仲入り) | |
へっつい幽霊 | 花いち |
落語を聴くのは、寄席がいちばん。四場の定席に戻ろうと決意した私。
だがちょいちょいやっぱり、仕事の隙間に、安くて短い席に出かけてしまう。
平日昼間のらくごカフェ、毎月やってる柳家花緑弟子の会へ。500円。
今回は、柳家花いちさんが出るので目当て。
他の二人も、花飛、圭花と面白そうな顔付けである。
冷たい雨の降りしきる中、神保町へ。
集客はつ離れする程度。だが内容は素晴らしいものでした。
受付は、過去3回来たこの会にすべて顔付けされていた花ごめさん。この日は落語はしない。
この日の出番は香盤順になったらしい。トップバッターは圭花さん。
花緑一門は、その全員を複数回聴いている私だが、圭花さんだけ、過去一度聴いただけ。
その一度は、なぜか群馬の太田だった。扇辰師を聴きにいったのだ。
今日は「花」のつく3人ですねなんて話を出番前にしていましたと圭花さん。まあ、花はないんですけどと自虐。
お客さんから「そんなことないよ」という返しもなくて、これで全員の気持ちがひとつになりましただって。
圭花さんと、次の花飛さんは、花緑一門の珍しい噺担当らしい。
前回のこの会で勧之助師が、圭花は高田馬場とか樟脳玉とか、変わった噺ばっかり師匠に教わってると言っていた。
「三ぼう」からケチのマクラを振る。六日知らずを指で実演してみせるのだが、6日目、小指を立てずに親指をにょきっと出してみせる。
え、そういうものなの? ちょっとびっくり。
ケチは息を吐くのもいやだが、吐かないと死んでしまうので少しずつ出す。こんなマクラ久々に聴いた。
ケチの主人、赤螺屋ケチ兵衛さんが、子供が生まれて嘆いている。今後どれだけ費用が掛かるかとぶつくさ。
うっかり嫁を貰い、寒いもんだから一緒に寝ていたら子供ができてしまったと。
「味噌蔵」の冒頭をばっさりカットしたのかと思った。一之輔師がそんな型でやっているのを聴いたことがあったし。
だが、味噌蔵ではない。珍品中の珍品、位牌屋である。たっぷり30分と本日一番の長講。
小僧の定吉が、おつけの実だと思ったら自分の目玉だったと主人にこぼすくだりでは、まだ味噌蔵だと思っていた。
だが、じゃあなにか入れるかと、つまみ菜売りの棒手振りを招き入れるので、別の噺と気づく。かみさんはここで出産しているので、ケチ兵衛さんも出かけたりしない。
つまみ菜を粗むしろの上に並べさせ、怒らせて返す際、むしろに引っ掛かったのをまとめると茶碗に一杯。喜ぶ小僧。
今度はお昼のおかずが欲しいというので、芋の棒手振りを招き入れ、また怒らせて見事に3本せしめる。
それから定吉が、お使いで仏師屋へ。
定吉、主人を見ていて学習し、落語の定番オウム返しをするのが笑いどころ。
しかし、冷静に考えるとひどい噺である。
主人はケチが過ぎてパワハラだし、棒手振りたちをひどい目に遭わせるし。
あろうことか、ケチの主人を真似する奉公人を褒めている。ブラック企業だ。
だが圭花さんの楽しい噺を聴いて、そんなおかしな感情のスイッチが発動することはない。
決してそこに、変なリアリティは持ち込まない。
古典落語はもともと、こういうあたりが上手く作ってある。
すっとんきょうな定吉のおかげで、楽しく聴ける。
位牌屋のサンプル自体少ないが、日本の話芸で金馬師が掛けていた。
改めてこれを聴いてみたのと、いろいろ調べてみてわかったが、圭花さんが珍しい噺に、さらに工夫を入れている。
噺の序盤に出てくる番頭を、小僧の定吉に替えているのだ。
この工夫のおかげで、最初から最後まで定吉が出てくるので、噺に一本筋が通る気がする。
満足の一席。
珍しい噺を、珍しいままで終わらせないところが偉い。
ちなみに圭花さん、声質は違うものの、声の使い方が三三師によく似ている。顔もなんとなく同系統だが。
客席をしっかり見て話す点、とても好感。