Zabu-1グランプリ・副音声多め(中)

トップバッター立川笑二さんの転失気を聴きながら、この噺の解説ではなく、どういった点が子供たちにウケるのかを語る、副音声の両師匠。
昔、弁当を楽しむ寄席の団体客の前で、転失気と肥瓶が続けて出たときに、支配人が血相変えて楽屋に飛んできたそうな。
そして、落語というものの行く末を想像する。着物を着て座布団座ってやるスタイルはたぶん変わらないだろうと。
そうなんだよな。
様式さえ残していれば、あとはなんでも落語として成り立つのは事実。様式がないと、落語ではない別のもの。
面白いかどうかという話ではなく。
落語の様式の重要性について、落語ディーパーで昇太師が力説していたのを思い出す。
手短に言うと、様式は表現の不自由さではなく、自由につながるということである。そのため、偶然できたスタイルに価値があって後世に残ったのだと。

三遊亭わん丈さんの紙入れを聴きながら、「紙入れという噺は、20代でやったらアニさんがたに叱られた」と語る扇遊師。
わん丈さんは30代だからいいが、若すぎるとこの噺、生々しいんだと。
鯉昇師がそれを受け、昔小学生が落語を演ずる大会で、紙入れを出してバカウケした子供がいたと。
なんちゅうガキじゃ。

キセルの所作など、初心者にわかるのか心配する両師匠。
学校寄席に行くと必ず扇子を使った説明を最初にするが、そもそも元のキセルがわからない。
まあいずれにしても、そんなところに落語の本質はないわな。

柳亭市弥さんの死神を聴きながら鯉昇師、学校寄席などでだろう、死神は子供が30分間、意外とおとなしく聴いているのだと。
なるほど。子供に落語を聴かせようとすると(そのこと自体が重要かどうかは別にして)、笑い以外の切り口もあるのだな。
子供のほうがむしろ、しっかりしたストーリーに食いつくのだろう。
さらに鯉昇師、5分超えたら、畳が割れて下に落ちると面白いだなんて。
5分にまとめる若手の努力を褒めつつ、「おじさんたちは(努力を)しなさ過ぎる」と鯉昇師。
扇遊師が返し、「そういう人生です」。

わん丈さんのAブロックの勝ち抜けを見ながら、1973年のNHK新人大賞の話をする扇遊師。
鯉昇さんが優勝で、私が準優勝だったと。こんなおじさんみたいな人に負けて悔しかったですよ、こんな田舎もんみたいな人に。
同い年で同郷ですよと鯉昇師。
あの予選、客に笑いのおばさんを入れていたが、だんだんくたびれてくるんだって。
これは、やはり優勝者でもある一之輔師がマクラで語っていたな。

春風亭㐂いちさんの祇園祭を聴きながら、東西交流とハラスメントについて語る両師匠。
上方の師匠は、金明竹の上方弁がイヤなんだと。これは鶴光師だろう。
祇園祭なんてめったに掛かる噺じゃないが、嫌みな上方男を聴いて嫌がる関西出身の落語好きもいるだろうね。
宗論についても語る。宗教を扱うので微妙な噺。
鯉昇師は、スポーツの好き嫌いを言うなという柳昇師の教えを紹介。
横浜出身の先代柳好は、お酒を飲んだとき、「誰にも言うなよ、オレ大洋ファンなんだ」って言ったって。そんな小声で言わなくても。
特定のプロ野球チームのファンであることを堂々とアピールし出したのは、阪神ネタで売れた月亭八方師からだったろうか。ちょっと特殊な例かもしれないが。

鯉昇師は、下ネタ落語の桂ぽんぽ娘さんをご存じだった。弟子(鯉白さんらしい)と会をやっているそうで、鯉昇師も一緒に出ている。
先日ぽんぽ娘さん、上京してあちこちで会をやっていたように記憶する。黒門亭にまで顔付けされていたが、番組収録も上京の際だろうか。
寿限無のパロディで、「ズルムケズルムケ」から始まる下ネタ落語を聴きながら扇遊師、「地上波と違って、BSは緩いのか」だって。
女性客が多いから、ぽんぽ娘さん、予選で大敗したのも当然だが、私は好きだな。
下ネタだからいいなんていうことじゃない。
5分向きに、ちゃんと新作を編集してぶつけてきたところが偉いと思うのだ。
鯉昇師、気を遣う娘なんですよとぽんぽ娘さんにフォローを入れる。客席にひとり子供がいただけで、ずいぶんマイルドになるんだって。
両師匠とも、この芸が結構好きらしい。確かに、技術的にはかなり高いよね。

柳家緑太さんは、「大師匠は人間国宝」という変な紹介で登場。なんだそりゃと思ったのだが、これ自体が壮大なシャレだったんだな。
「からぬけ」を聴きながら、最初に習う噺について語る両師匠。
扇遊師は、からぬけは古今亭の噺だと。私の場合は寿限無だった。
鯉昇師は、一門的には本来寿限無なのだが、川崎の柳好師の大好きな、新聞記事だったそうだ。
今ではどこでも聴ける噺だが、昔はわりと珍しかったから得したそうな。
柳家は道灌だと。三遊亭は八九升。
噺にも流行りすたりがある。前座の頃は、毎日やかんが出ていたとお二人。
湯屋番と野ざらしもよく出ていた。今はそれほど出ない。

さて、からぬけを端正に演じたと思っていた緑太さんがいきなりラップを始めて驚く二人。
花緑さんはいろいろチャレンジする人だよねと、師匠を褒める。
鯉昇師は、昔(林家)しん平アニさんがサングラス掛けてやってましたねだって。
知らないけど、あの人ならやりそうだ。私の子供の頃、結構売れてたことは記憶にある。

もう1回、私も大好きな両師匠のお喋りに耳を傾けます。

続きます。

 

作成者: でっち定吉

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