Zabu-1グランプリ・副音声多め(下)

それにしても、若手の落語を聴きながらコメントを出す扇遊、鯉昇の両師匠につくづく感心する。
時そばをそば処ベートーベンにしてしまう鯉昇師はわかりやすいが、文部科学大臣賞と紫綬褒章を続けて受賞した、端正な落語に定評のある扇遊師も、また相当に柔軟な人だ。
この師匠たちは、若手のことを、自分たち大家に劣る未熟な存在だなどとみなしたりしていない。自分たちも常に、若手から学べることがあると考えているのだろう。
ここには、こだわりを捨てることに対する師匠なりの美学もある。
両師匠の柔軟さこそ、落語が生きながらえてきた理由を物語っている。
小三治師みたいに、絶対基準を打ち立て、それをもってどうこう言う人のほうがおかしいのだ。
両師匠と同い年の志ん輔師にも、たぶんこんな柔軟性はない。番組に呼ばれたとしたら、どこかで勝手に怒り出すと思う。

反対俥の林家つる子さんを聴きながら、こういう会で若手が思い切ってやる落語を聴くのもいいのではないかと語る両師。
寄席だと二ツ目は出番も少ないし、気も遣う。まあ、寄席ではもちろん気を遣わないといけないのだが。
若手の着物も派手になったと語る鯉昇師。
ぼくの入った頃は、文治師匠(先代)が色紋付を認めなかったと。黒紋付が似合わないような人はやめたほうがいいという雰囲気だった。
もう、若手で黒紋付が似合うような人はいないですねと鯉昇師。扇遊師が、「文治さん(当代)は?」と聴くと鯉昇師、「あれは若手じゃないです」。
確かに文治師、もう52歳。

つる子さんを引き続き聴きながら、扇遊師、女流は何人になりましたかと。鯉昇師が、30人ぐらいですかと。
私が数えたら、落語協会20人、芸協8人、立川流1人。多少抜けがあるかもしれないが、東京だけの人数なら鯉昇師のいう通り。
女流の会がよくあるが、むしろ「私は男の中で目立ちたい」っていう人が多いんだって。だから女流の会には出たがらないのだそうだ。
みんな、仲良くないと思いますねと鯉昇師。つる子さんのことを直接指してるのかどうかは知らない。
よくそんなことご存じだなと感心。13人の弟子を持つ鯉昇師のところに、女流がいるわけではないけども。

名前も、「○○亭」が古臭く映るのだと。下の名前を、カタカナや横文字で書くと今に近づくなんていう鯉昇師。なんのことか。
でもその先駆けとして「ヨネスケ」がすでにあるじゃないかなんて思ったが。
扇遊師が答えて、ローマ字でRISHOだとカッコいい。私はせんゆうで、スーパーみたいだって。
逆の話としては、40年前に(三笑亭)夢楽師匠が、噺家なんだからいつもフルネームで紹介して欲しいなんて言っていたそうな。

みんなちゃんとやってますねと褒める鯉昇師。
大工調べを5分でやろうとする桂宮治さんに、そのチャレンジ精神はすごいと扇遊師。我々にはないと。
鯉昇師、扇遊さんは静岡県民で啖呵が切れると。ぼく啖呵切ったことないって。これはたぶん本当だ。
啖呵ができなくたって東京の落語はできるのである。
宮治さんはもうすぐ真打? と扇遊師が訊く。同じ協会の鯉昇師が、この人は数年前からその声があるが、役員会にその動議が出るのがだいたい12時15分。12時半には終わらなくちゃならないので、いつも次回に流れて、そんなことで3年4年経っちゃっただって。
宮治さん、技術は申し分ないし笑わせる能力も高いけど、実際のところ、なにか抜擢させるのを躊躇させたくなるものがあるんじゃないかと想像している。
これはおふたりの感想ではないが、宮治さん、啖呵だけ一度客の前でやりたかったんだろう。でも、そこだけダイジェストで出してもね。
実際、予選最下位だった。

昇々さんのちりとてちんには結構私は感心したのだ。見事に5分にまとめてしまった。
ちりとてちんの嫌味な男のことは、本当に嫌味には誰も描かない。だが、マンガっぽく、旦那とお清の宿敵として描くことにする。
昇々さんは、古典落語をマンガチックに描くのが上手い。
そんなちりとてちんを聴いて、なるほどと笑う両師匠。
昇太師もちりとてちんを得意ネタにしているが、もともと兄弟子の鯉昇師から行ったものだそうな。それが弟子の昇々さんにも引き継がれている。
この噺も、団体が弁当食ってるときにはやらないほうがいいと鯉昇師。料理屋の座敷に呼ばれたときに掛けると出入り止めになりそうだって。ウケるのだけど。
昇々さんを聴きながら、こういう若手は客目線でも面白いと鯉昇師。
この後で、昇々さんが実際にリアルちりとてちんを作った話をしていたが、鯉昇師も以前喬太郎師の番組で、貧乏時代に腐りかけの豆腐を食って、妄想に襲われたという話をしていたっけ。
と思い出していたらこの副音声でも同じ話を語っていた。自律神経失調症になって、入門が半年遅れたそうな。

副音声で語られたすべてを書き記すつもりはない。絞り込んでいるのだけど、面白くてつい長くなってしまった。
上中下で終らせる予定だったのですが、もう1日続きます
尺が足らなかったら、別のTV番組の話を付け加える。

作成者: でっち定吉

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