Zabu-1グランプリ・副音声多め(終)

Zabu-1グランプリについて、もっぱら副音声だけでいろいろ書いていたら、予想外の延長戦に入ってしまった。
三遊亭わん丈さんの「寄合酒」はダイジェストにも字幕にも頼らない、見事な5分の一席。
色っぽい女も出ませんと断って勝負。
初心者が聴いても、わん丈さんの語りはカッコイイやね。
正当派古典で勝負とはすごい度胸だが、でも対戦相手を考えたときにベストではあった。
寂しいもののたとえとして、「夜明けの銀座通り」に合わせて、背景を替える。
演出としては許容範囲だと思うが、落語を聴くにはいささか邪魔である。
しかし「従業員のいない保育園」に合わせて保育園の画像が出てきて、爆笑する鯉昇師。
ここで、「落語を冒涜しやがって」などと怒ってはいけない。
予選落ちした人のためにも、あらかじめなにかしら作り込んでおいたのだなと、制作側に感心する。
せっかくの鯛をわざわざ犬に食わせてやるという新たなクスグリを聴きながら、感心する扇遊師。
そして鯉昇師は、新しいクスグリは抜けちゃうんだと。
抜けちゃうというのは、演者が飛ばしてしまうという意味ではなく、客が寄席でぼんやり聴いていたときに、聴きなれないフレーズなのでスルーしてしまうんだという意味らしい。
そんなクスグリの多い鯉昇師が言うと説得力がある。

林家つる子さんは逆に、決勝でダイジェストを使ってお菊の皿。
お菊の皿だと、もう元を知らない世代ですよねと鯉昇師。牡丹灯籠とか。
元がわからないとつまらないですねと扇遊師。
いやでも、私なんか、子供の頃から落語のお菊の皿として知ってるけど。
「お菊」ではなく、中国人地下アイドルの「王キク」だと知り、のけぞる両師匠。
やはり、つる子さんは現状ぶっ飛んだ新作のほうが楽しい人だなと、これは私の勝手な感想。
ぶっ飛んだお菊の皿を聴きながら、でもと扇遊師。圓生の皿屋敷にも、「現場から実況します」なんて音源が残っているはずだと。
鯉昇師が受けて、死神の「あじゃらかもくれんナイジェリア」とか。
だから、あんな大師匠だって遊んでいたのだと。
そうですな。このつる子さんみたいにウケればOK。ただ、ウケるのはそんなに簡単じゃない。

柳家緑太さんは、さすがに二匹目のどじょうはなかったか。
味噌豆に入る。からぬけと同様、小ネタ。
鯉昇師が、我々の業界でいう、大ネタや前座ネタという区分はお客さんにはないですよねと。
扇遊師がそうですねと。我々は考えちゃうけどねと。
扇遊師、ひとくちに若手たちといっても、実は我々より修羅場くぐってるんじゃないかだって。辛いこともしてきたんじゃないかと。
確かに、今の二ツ目さんは落語だけで飯が食えるようになっている。だがその分、おかしな落語会も経験してるだろうな。
そして、両師匠の予想通り、またラップ。

すべての演者が終わり、改めて乾杯をする両師匠。いい正月だと。緩いな。
若い人たちを褒めたたえつつ、もはや番組の進行については無視し、わん丈さんの優勝についても、別段もうコメントしないという素敵な酒飲み。
勝ち負けのない業界ではあるが、刺激は必要だと鯉昇師。
扇遊師が鯉昇師に、昔のNHKの賞金はどうしましたと。

この番組の次回以降の方向性を考えてみる。もうないかもしれないけど。
いっそマニア向けに、古典落語の大ネタを、ワンシーンだけ抜き出してやるっていうのはどうだろう?
宮治さんがそれで失敗してたのに今さらだけど。
緑太さんのラップも、落語を知っている人に、落語なしでブツけたら面白いかも。
ダイジェスト方式は、落語初心者にも評判悪いと思う。
初心者をバカにしてはいけない。落語ファンになったという時点で、すでに多くのハードルを超えてきているのだから。

案の定尺が足りないので、関係ない別番組の話をおまけに。でも、二ツ目つながり。
笑点特大号の末尾「本日の若手の楽屋」で、林家けい木さんが、「細かすぎて伝わりにくい噺家モノマネ」をやっていた。
この人、別に若手大喜利のメンバーじゃないので、これのために呼ばれていたのか? BSの収録には、師匠・木久扇の出番はないと思う。
けい木さんは落語協会だが、昨年の芸協らくごまつりで、この手のものをたくさん聴いた。それも思い出して嬉しくなってしまった。
噺家さんには、協会や一門の寄合がよくある。この際に余興として披露するのだと思う。
こういうのが上手い人は、本業のほうで、必ず抜け出てくるのだろう。
いきなり、林家正雀師の渋いモノマネを披露する。しびれてしまった。
「安兵衛狐の、当代馬生、隅田川馬石のサゲの違い」「先代・当代圓歌のモノマネ演じ分け」にはムチャクチャ笑った。
けい木さんという人は、二ツ目中堅どころというキャリアのわりには、不思議と聴いたことがない。
名前しか知らなかった人だが、こういう人もいる木久扇一門、今本当に面白いと思う。
そして師匠が積極的に、弟子がテレビに映れるよう売り込んでくれているみたいだ。
チャンスを活かせるかどうかは本人次第だろうが。

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作成者: でっち定吉

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