春風亭昇々「雑俳」

仕事が煮詰まり、頭がぼうっとする。眼も痛い。こんなときは落語を聴きに行く。要はサボリです。
神田連雀亭ワンコイン寄席。早くも5回目である。私ももう、立派な常連だ。
今日は仕事のついでも何もなくて、このためだけに出かけて帰ってきた。そんなに近いわけでもないんですが。
開演間際に到着すると、テケツに昇々さんが座っていた。
今日の目当てはこの昇々さん。人数は20人弱と、そこそこ盛況。若い女性も見受けられる。

ちよりん/ 泣き塩
歌扇  / 紙入れ
昇々  / 雑俳

女流のちよりんさんは、葬儀場のマクラが面白かった。
こみちさんからも聴いたので、セレモニーホールの友引の日に落語をする二ツ目さんの、共有財産みたいだ。
がっちり客をつかんでから珍しい噺に入るが、本編に入ったら見事に失速していました。残念。
こういうところが落語は難しい。マクラのウケ方が、トータルで足を引っ張ることもある。

歌扇さんの「紙入れ」を聴いて、先日の池袋で聴いた春風亭柳朝師の「紙入れ」は、改めて絶品であったなと思った。すまぬ。
サスペンスドラマに出てくる、「刑事が聞き込みに行くと出てくるなにか隠していそうな社長」ふうの歌扇さんに、向いている噺とは思わない。

さて、お目当て。
昇々さんは、一昨日に大阪に仕事で行ったそうだ。
証券会社主催の「NISA」説明会会場で、説明のための落語を作って披露するという、無茶振り気味の仕事で大スベリしたマクラから。
この件、調べたらわかった。16日にBSジャパンで放映するみたい。

そしてタクシーにスマホを忘れ、新幹線に乗るのを止めて公衆電話で必死に探したところ見つかったが、門真の営業所まで取りに行く羽目になったと。
ツイッターに京阪「萱島」駅の写真が出ている。ここ、ホームを突き抜けているクスノキの巨木が有名な駅なんだけど。その話は残念ながらなかった。

昇々さんのマクラ、世間話なんだけども、ちゃんと漫談になっているところがいい。
自分の話をしているようで、実際は語り手と切り離したキャラクターをきちんと動かしている。
客席とフレンドリーな関係を構築しているふうだが、その実、一線を引いて、オチを付けたひとまとまりの小噺をしっかり語っているのだ。
そのために昇々さんは、話しながら体をねじってさりげなく、客との心理的距離感が詰まり過ぎないようにしている。
客に付かず離れず、絶妙の距離感を保つ。小さな席だからこそよくわかる。
くねくねする昇々さんに、亡くなった古今亭圓菊師匠をちょっとだけ思い出した。くねくねする目的は違うけど。

自虐マクラを楽しく語りながら、「ポンキッキーズで共演している」藤原さくらの話や、昨日ナレーションの仕事をしに出掛けたら車をぶつけたなど、売れてるアピールもさりげなく忘れない昇々さん。
売れてるのは事実だし、いいんですけどね。売れない噺家にひがまれやしないか心配。
余計なことでひがまれないように、こういうアピールが出てしまうのには気を付けたほうがいいのではないでしょうか?
仕事で出かけたといえばいいので、「ナレーション」はいらないでしょう。

時間が20分しかないから、マクラ喋ってると噺ができなくなっちゃうと言いつつマクラが長くなる。
そして、「今日やるつもりだったネタ、できませんので別のにします」。
マクラの内容からすると、粗忽ネタでもやるつもりだったのか? 「粗忽長屋」は持ってるらしい。
「ご隠居さんいますか」と古典落語に入る。
「道灌」や「一目上がり」ではないだろうしなにかなと思いながら聴いていたが、「雑俳」だとわかる前から、隠居と八っつぁんのやり取り、すでに面白い。
「粗茶」から「粗ざぶとん」「粗隠居」「粗ハゲ頭」くらいはたまに聴くが、「粗天井」「粗戸」と次々畳みかける。「粗戸を開けたらそとだった」。
ギャグは多いが、決してムダ討ちはしない。
隠居と八っつぁんとの関係性がしっかり描かれているのはさすがだ。
このシーン、前座さんでもないのに、セリフを淡々と進めるだけという高座にたまに出くわす。そんなものは聴きたくない。
技術的にも達者な昇々さんだが、二ツ目になってまだ6年だものなあ。
「雑俳」は、大師匠・柳昇から師匠・昇太を経由して来ている噺だから、新作の一門ではあるが看板噺である。
オリジナル雑俳が入っていたわけでもないし、格別のアレンジは感じなかったけども、一瞬柳昇の語りが聴こえてきて嬉しくなってしまった。

隠居が娘さんを「さるところに縁付けた」と聴いて、「へえー、猿は喜んだろうね。初めて人間の嫁が来たって」。これ、どう考えても柳昇だからウケるセリフ。でも、昇々さん同じセリフでしっかりウケを取る。

まあ、「雑俳」ではこの人の持ち味「狂気」もさほど感じられないけれど、とにかく昇々さん、上手いし面白い。追いかける価値がある。
よくも悪くも、現時点でかなり完成している芸だろう。さらにまだまだ伸びるとは思うけど。
もしかしたら、「春風亭柳昇」の名を、昇太師が継がず、昇々さんに継がせるというプランもあるのではないだろうか。そのときは、5~6年後くらいに抜擢真打で襲名とみる。
先走りし過ぎかな。でも、スターの欲しい芸協としても、決して夢物語でもないと思う。

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カテゴリー: 噺家

作成者: でっち定吉

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