亀戸梅屋敷落語会 その3(夢丸&天どん「おせつ徳三郎」リレー」)

夢丸師、子供に焦点を当てておいて、小僧が活躍する花見小僧へ。これは花形演芸会でネタ出ししていた噺。
落語協会の人から聴く花見小僧とだいぶ違う。
私の知る花見小僧だと、語り手の定吉がときどき消えてしまう。形としては定吉の回想なのだが、回想シーンが高座の上に直接映し出されるというやり方。
この構造はすばらしいが、それとは違い、小僧の定吉が噺の前面に常に出ている。
まさに定吉ワンマンショー。
そしてこの、スキあらば主人の裏をかこうとする定吉が、夢丸師にぴったり。でも、ずるい子供ではないので可愛い。
おせつ徳三郎の二人は、噺の遠景にとどまっている。定吉がすべてを支配するのだ。
そして自白するなら先にしろと主人に言われ、主人の知らない悪事を次々語り出す定吉。船徳や質屋蔵みたいな構成。
これはヒット。
夢丸師、もっと聴きにいきたいものだ。寄席ももちろんだが、個人の会を。

さらに嬉しいおまけとして、仲入り後の天どん師がこの後、刀屋をリレーで掛けるという贅沢。

仲入り休憩時の好の助師は、ツイッターでおなじみだが「つの丸」デザインの自分のてぬぐいを、マスクの替わりに巻いている。
席に戻ると妙に寒い。なんで冷房入れてるんだと思ったら、コロナ防止のため換気窓をフルに開けていたのだった。
休憩終了時に窓を閉めるのは、世話人の好の助師である。
忙しいですね。

香盤順ではトリでもいい天どん師。好の助師と、花形演芸会レギュラーメンバーに遠慮したものか。
うぐいす色の鮮やかな着物で登場。チラシを持ってくるために亀戸までにやってきましたと。
浅草に出て遅れてきたので、仲入り時に好の助師が天どん師のチラシを配っていた。池袋のトリのチラシは割引券を兼ねている。行こうかな。

私はコロナに掛かってみたいですだって。
お客さんがよく笑えば、飛沫が演者に掛かってそれで発症するわけです。
だから、コロナに掛からないなんて噺家は、あまりウケていないんじゃないかなんて。
不謹慎なネタだが、あまりそう感じない。この変人自身が、特に不謹慎だと思っていないかららしい。

師はDVDを出した。今日はせっかくだから3枚持ってきたのですが、この前に浅草で2枚、寄席の関係者に声掛けられ、売ってしまいました。
ぼくは席亭とか支配人とか偉い人には評判よくないんですけど、下の人には人気あるんですだって。
1枚残ってるので誰か買ってくださいと、袂からDVDを取り出す。
さて用は済んだので、適当にやって帰ります。

花形演芸会は、ぼくはゲストとしての出演だったんです。会が潰れたといっても、それほどダメージはないので。
昔本当の出演者として呼ばれていた頃は、銀賞にも全然縁がありませんでした。龍玉みたいなわけわからないやつが獲ったりなんかして。
だから嫌いな会なんです。それに出られるというので留飲「下がりまくり」でした。
呪っていたら会がなくなってしまいました。
でも出ていても、国立の出演料はびっくりするほど安いので、今日の会のワリのほうがいいんじゃないですかねだって。
よく知っているわけじゃないが、そういえば国立の出演料はワリじゃないんだね。客の多少と実入りは関係ないわけだ。
年譜を見ると、2014年に蜃気楼龍玉師と一緒に、天どん師も銀賞獲っている。なにを言っているのやらよくわからない。

先ほど夢丸さんが花見小僧やってましたね、芸協さんの型ですねと。
この後続きがあって、ガラッと雰囲気の替わる刀屋になります。
せっかくだから、私も刀屋持ってるんでやります。なんですかその疑いの目は。私だって三遊亭のちゃんとした系譜なんですよ。間に円丈が入っているだけで。
刀屋やると聞いて拍手が起こるが、いえいえ、終わってからにしてくださいよと。

古典落語もよくやっているから、新作派というよりむしろ二刀流といってもいい天どん師。
この刀屋が、実によかった。語り口が人情噺にぴったり。
一切弾むところを見せず、低いトーンでボソボソ喋るのだが、このトーンに安定感が生まれてくる。
人情を語り込むわけではなく、ギャグも入るしそれに客も笑うのだが、徹底した引き芸の天どん師、笑わせてやれという嫌らしい部分はまったくない。
お互いに木刀を引き合って、道具屋だねなんてクスグリもあった。
噺に対して演者が引いて、決して踏み込まないので、客が自由に解釈できるのである。押しつけがましさが皆無。
なかなかこんなふうには語れない。天どん師のハートの強さを改めて思い知る。

ちゃんと刀屋の主人の語る人情が、基本楽しい噺の中に徐々に蓄積されてくる。
しかし、筏の上に落ちて助かるおせつと徳三郎を、全身ビジュアルで演ずる結末が、落ち着いたムードを吹き飛ばす大爆笑。
着物の下まで見せて、落ちて助かったふたりをそれぞれ姿で演じ分ける。
「お材木で助かった」と、どうでもいいサゲをこっそりつぶやいて退場。
実に面白かった。
花形演芸会での花見小僧ネタ出しを知って、すでに用意していたのかもしれない。

続きます。

 

おせつ徳三郎(通し)

 

 

作成者: でっち定吉

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